「蒼刻院弓弦と言います。よろしくお願いします。」





黒板でその重々しさを感じる名前を書かれた彼は律儀に頭を下げた。率直な感想、―――美青年だ。と思った。
他のクラスメートの女子達も私と同じらしく、転校初日から女子の人気者として学園の話題となった。
その清楚で凛々しく、気高さのある彼は弓道部のエースを務めており、女子からの人気はますます高まった。
同じ学園の下でも、私の住んでいる世界と、彼の住んでいる世界は違う。
こんな凡人な私に目に留める訳が無いだろうと多少断念していた。でも少しでいいから話だけはしてみたいな、という願いも。
それがある時、廊下で落ちていたハンカチを偶然彼が拾って私に届けてくれた。あまりの対面に動揺しながらお礼を言うと
ドラマで見るようなかっこいい微笑を見せ、背を向けた時に後ろに一つに束ねた長い髪が風も吹いていないのにさらりと流れた。
その魅力的な姿に私は完全にKO。――――そう、彼に、恋をしてしまったのだ。



今日も私はひと箱分の弁当箱を抱えて武道館に向かう。これは弓弦くんにあげる物。
烈くんと風雅くんが物欲しそうにしていたけど「これは弓弦くんのだから!」ときつく断ってやった。
非常に残念がられたけれど、後で難しそうな顔をされた。「あいつに簡単に渡せるわけがないだろう」と言いたいように。
案の定武道館で立ち往生のままの弓弦くんに女子の殺到。私と同じように弁当箱を持って食べて、と催促する人、
将来私のお婿さんになって、と懇願する大胆な人様々だった。あぁ、さすがにこんな調子じゃ渡せないな。
もし無理だったら烈くんか風雅くんにこの弁当を渡してあげよう、と考えていた―――時だった。



「ごめん。ちょっと用事があるから。今日はこの辺で。」



突然そう言い出して集まっていた女子達を帰らせたものだから。やはり彼自身も忙しいからあまり構ってやれないのだろうか。
不満げな表情で次々に帰っていく女子達。私もそれにつられるように帰ろうとしたら、



さん。」



自分の苗字を初めて呼ばれて、「え、」と彼の方に振り向く。いつもの学生服とは一風変わった、清楚な着物に身を包んだ
弓弦くんの姿。いつの間にかこの場にいるのは私と、弓弦くんの二人だけ。



「君は確か僕がハンカチを拾って、」

「あっ、う、うんっ!あの時はありがとうっ!蒼刻院くん!」

「どういたしまして。いつも僕の所に来てその箱を大事に抱えて待っているのをよく見かけるから、
さんのことは既に知っていたよ。…ごめん、なかなか声をかけられなくて。」

「えっ、いやいやそんな!別に、気を遣ってくれなくても」



ってことは弓弦くんも私の存在に既に気付いていた事になる。恥ずかしいっ…////さすがに優しい弓弦くんでも
鬱陶しい女だと思っているのだろう。けどいいのだろうか、他の女の子達を帰らせたりしてしまって。
明日から私が怪しげな目で見られそうで怖い。;;;誰かの視線がいないか、背後をついつい気にしてしまう。



「上がっていくかい?立ち話もなんだからさ」

「え、い、いいの??蒼刻院くん」

「別に下の名前で呼んでくれても構わないよ。皆もそう呼んでいるし、長くて堅苦しいだろ?」

「う、…うんっ、ありがとう、弓弦くん!」



重々しさが伝わってかっこいい苗字だったからそれでも良かったけど、初めて弓弦くん、と名前を呼ぶ事が出来て嬉しかった。
誰もいない武道館に入っていく弓弦くんと、その後に続くように私。まさか用事ってこの事だったんじゃ、なんて
有り得ないような妄想を描きながら未だ慣れない武道館に遠慮がちにお邪魔した。


















「お弁当?」



丁重に正座する弓弦くんの前で自信たっぷりに「うん!」と首を縦に頷く。今日は部活はお休みみたいで
忘れ物を取りに武道館に戻って来たらファンの女の子達に絡まれた、という経緯らしい。勿論、私と弓弦くん以外誰もいない。
緊張して体が強張ってしまう反面、憧れの弓弦くんと初めて二人きりになれたというロマンチックを感じた。
お弁当箱を前に、弓弦くんは少し困ったような顔をした。



「参ったな。昼にお腹いっぱい食べさせられて、流石にこれ以上は…」

「ううん。お弁当に見えて、実はそうでもないんだよ。」



私の意味深な言葉に「?」と首をかしげる弓弦くんの前で、「まぁ中を見たら分かるから」とその蓋を取って見せる。
ほのかな甘い香りを漂わせたそれは、



「…ケーキ?」

「弓弦くんケーキはもしかして初めて?」

「今まで和菓子しか食べたことなくて、家でも食べさせてもらったこと無かったから。どんなものかなと気になって。」

「ふふっ、ならちょうど良かった!」



弓弦くんのその言葉を聞いて、ショートケーキをプレゼントとして贈ったトップバッターは私だと知り、心が舞い踊った。
深々と頭を下げながら「頂きます」と挨拶を交わしてからそのケーキを手に取って、一口。
そこまで丁寧にしなくてもいいのに、と少し微笑む。きっと厳しい家で育てられたんだろうな、と読み取れた。
初めて食べるケーキをゆっくりと咀嚼しながら弓弦くんは目をちょっと丸くしていた。



「…甘くて、美味しい。これがケーキなのか。」

「ちなみにそれ、お店で買った物ではありません」

「ま、まさか、 さんが作ったの?」

「正解っ!」



これにはもっとびっくりした弓弦くんの目がもっと丸くなった。メレンゲを泡立てるのが簡単そうに見えて実際には何回も失敗して、
上手に出来た時のあの達成感は無かった。店で買った方が本当は良かったけど、手抜きだとは思われたくなかったし
何より目の前にいる好きな人の為だからこそ、いつもより気合を入れて作ってきたのだ。美味しいと褒められて良かった。
…にしても弓弦くんはなんてお上品な食べ方をするのだろう、と思う。お昼の休憩時に女子達が見惚れてしまう理由が凄く分かる。
まぁ私もその一人に過ぎないのだが、一緒に食べていた烈くん達に小突かれて我に返るまでは、食べることも忘れて
そのまま見とれてしまった事があった。ケーキ一つだけだったのがとても惜しかったけど、気が付いたらすっかり丁寧に
食べてしまって空の弁当箱が返された。



「ご馳走様。ケーキ、とても美味しかったよ。ありがとう。」

「ううん、お礼を言いたいのはこっちだよ!食べてくれてありがとうっ、弓弦くん!」

「また今度 さんの作ったケーキをもう一度食べたいな」

「もっちろん!弓弦くんの為なら何個でも作ってあげるよ!」

「ハハ、5個とか6個は流石に困るけどね。」



タルトやアップルパイはケーキ作りに慣れてから挑戦するということで今度はチョコレートケーキか、シフォンケーキがいいかな、と
考えを巡らせていたら、



さん」



布に大事にくるまれた弓箭を持って静かに立ち上がった弓弦くんの透き通った青の瞳が私を凛と見据える。
弓弦くんの唇から出た言葉は、私の心臓を跳ねさせた。



「良かったら、僕と一緒に帰るかい?」

「え、えっ??」




「ゆっくり話がしたいし、 さんの事がもっと知りたいな。」




一瞬言葉を失った。これは単刀直入に言えば、弓弦くんなりの、まさか、――――


こんな私で本当にいいのだろうかと思ったけど、すぐにぱぁっと笑顔が咲いた。




「うんっ!帰ろっ!明日から私と弓弦くんのお弁当二つ作って持ってくるからっ!」




今すぐでなくてもいい。いつの日か彼の唇から、苗字ではなく下の名前を発されたら。どれだけ幸せに思うだろう。
「期待しているよ。」と優しく微笑む弓弦くんの腕を初めて手に取った。



-end-






★※弓弦くんは転校生という設定

弓弦くんかっこいいよ弓弦くん(*´∀`*)つい甘甘に書いてしまった(・ ω・)あーうー←最近の口癖
大遅刻してしまったその罪滅しとして弓弦くんさっさと書き上げちゃいました!!!!!
いやーサウンドノベル聞きながら作業していると小説書くのが楽しくなりますね♪絵なんかよりももっともっと書いていきたい(をい)
「林」とか「佐藤」より難しい苗字とか名前を付けるのが好きですvvv

もう弓弦くんみたいなどこぞのイケメン学園から出てきたようなキャラを出してもいいのですか、KONAMIさま!!!
っていうかいつからそんな乙女ゲームと化したんですか、一応音楽ゲームでしょうに!!!!それなら
曲よりイケメンキャラをどんどん増やしたら私は発狂寸z…ごほん!!;;;=3相変わらず意味のないコメントが長すぎる;;(いやいや)

mikko.は苺タルトが大好きです(*´ω`*)←ま た そ の 話 か 


15.3.9