上京が突然決まった僕は



一体どんな顔をしてこの気持ちを伝えればいいんだろう。



大好きな、君の前で――――















「引っ越す…?」




力ない声で聞きたくなかったその言葉を呟くと、目の前のわかば君は数秒遅れて首をこくん、と縦に振った。
いつもおませだったわかば君の弱気な姿。真っ白い帽子からちらりと覗く目元が少し潤んでいる所で
冗談ではない事が分かってしまった。


頭を鈍器で殴られたような衝撃の事実がわかば君の口からぽつり、ぽつりと零れ出てくる。



「…父さんの仕事の都合で……東京に」


「3学期の、終わりに…ここを出て行かなくちゃ、いけないんだ」



東京、なんてこんな田舎よりももっと都会で反対側のもっと遠いところじゃないか。
車で行ったらとんでもないぐらいにかかる距離間。飛行機なんて不便なことに直行便なんて出ていない。
しかも3学期なんて短いしあっという間に終わる。わかば君と一緒に居られるのも僅かしか無いということになる。
私は突然の急な知らせとその内容に心臓をぎゅうと鷲掴みにされ、何も言えずにただただ困惑し、立ち尽くす他無かった。



「…っ…ごめん… っ……一緒に居る約束っ……出来なくてっ……。」



くしゃり。と誕生日プレゼントの入った包みを抱えたわかば君の手が震えている。
小さな唇を噛み締めながら涙をぽろぽろと零していた。こんなに泣くわかば君は見た事がない。初めてだった。



けれど不思議と私は落ち着いていた。…ふりを見せる。今まで大人びたことを言われっぱなしで
少し悔しい思いをしたので、今度は私が言い返す番だ、と虚勢を張ってみせた。




「もう、何泣いてなんかいるのよ。いつもの強気なわかば君はどーしたの?」

―――― 私だって本当は泣きたいのに。悲しくて悲しくて、しょうがないのに。



「…それに今日でお別れする訳じゃないし、間があるから会える日がまだあるじゃない」

―――― 何を言っているんだろう。わかば君とこうして居られるのも時間の問題なのに。



「言っとくけど、他の学校行ってそうやって泣きべそかいちゃ駄目だよ。すぐにいじめられるのがオチだから」

「… に言われたくないよ」

―――― …行っちゃ嫌だ。行って欲しくなんか、ないよ…!





わかば君の喜ぶ顔が楽しみで毎年贈ってきた誕生日プレゼント。これが今年最後になるのかもしれない。
大好きな彼と過ごしてきた優しくて、当たり前の日々。それが消えて失くなってしまうと思うと、余計に悲しくなってくる。


飛行機でも車でも無理なら…大空を舞う鳥さんになりたい。鳥さんになって飛んで…すぐにでも
会いに行けたらどんなにいいのだろうか。わかば君は近頃、よく窓の外を眺めては溜息ばかりついていた。
まさか、私の今の心境を…わかば君はずっとおんなじことを抱えていたのだろうか。



向こうへ行ってしまっても元気でね、なんて口が裂けても言いたくない。
そんな事言うと、私たちはもう二度と会えないような気がして。
それっきりお互い何も喋らなくなり黙ったまま立ち尽くしていた。




ぽん、と何かが頭に乗っけられる。顔を上げると帽子の無いわかば君の姿。
自分のいつも被っていた愛用の帽子だった。



「これ、」

「あげる。」

「…いい、の…?」

「プレゼントのお礼」

「……。」

「…ったい、会いに、戻るから」

「え…?」

「…っ…向こうの生活が慣れたら、 に会いにっ、絶対会いに戻ってくるからっ!!」

「!……」

「学校を卒業しても、大人になっても、手紙いっぱい書いて送るしっ…電話もする!いつかここに帰って
に必ず会いに来るからっ!!……だからっ……約束っ………!」

「…っ………。」



強い眼差しで私を見つめるわかば君がとても優しくって。

泣きたくなってしまう。

だけど決して涙なんか見せないように

精一杯笑って強く頷いた。



うん。約束だよ、と。













わかば君がとうとう行ってしまう前日。


クラスの皆と先生が催してくれたお別れ会。


一人一人が順番に贈る別れのメッセージ。


私だけ緊張の糸が切れたように、大声でわんわん泣き出してしまった。


こんな私に比べて、わかば君は決して泣かずに


最後まで意を決したような強い瞳をしていた。


あぁ、私の方がわかば君よりも


もっともっと泣き虫だよね。


皆が居るのも関わらず、教室の真ん中で声を張り上げたわかば君の言葉を


私はいつまでもずっと忘れない。


「泣くなよ 。また会うって、あの時約束しただろ?」





だから私たちは、さよならなんか言わない。


きっといつか会える。そう信じているから。




-end-





★わかば君の曲は可愛いけれど詩がなんとも切なくて泣けます(;_;)mikko.が小学生の時転校した当時を思い出します。
転校しなきゃいけない辛さと別れる辛さは誰にでもありますし、何より悲しいですよね。。。


2015.1.1

今度こそ本当に明けましておめでとう★