ボーカリストとして生きる為に毎日の腹筋運動は欠かさない。デビューしてから今や毎日の日課となった。


一見クールそうであまり目だとうとしない、けれど人の心に直接訴えかけるような歌声と
シンプルな詩が魅力的だと評判。世間からはそう言われている。





しかし、未だあの人に一度も伝えたことがない。


自分の、この本音を。













今日の目標を成し遂げた達成感はとても清々しい。10月。秋になった青空にうろこ雲が棚引いている。
遠くにぽつぽつと建物が見える。坂の緑の原っぱ。せせらぎの川。

腹筋トレや詩を考えるときによく使っている以前からの気に入った場所である。この爽やかな風景と
心地良い風が火照った体を涼ませてくれる。ここの空気を吸うのが最高だ。


途端。ひやりとした何かが頬に当てられ背筋が一瞬だけゾクッとなった。



「トレーニングお疲れ様、テルオさん。」

「何だ、 か」

「ふふっ、今の反応すごく面白かった。驚いちゃった?」



爽やかな秋風に吹かれて横に綺麗に流れる長い髪が印象的の想い人・
冷たい水の入ったペットボトルを差し出しながら柔らかく優しい笑みを浮かべながら見つめていた。



「もうすっかり秋ね。」

「あぁ、そうだな。」

「去年のちょうどこの時期もここで貴方と初めて会ったわよね。ふふっ、懐かしい。」

「本当に一年経つのが早いものだ」



そう言いながらキャップを開け、水を喉にゆっくりと流し込む。十分に冷え切った水が体中に
ひんやりと包み込み、美味しく感じた。


一年前の今頃。同じように腹筋トレに熱中していた時に不意に声をかけられた━━━━それが彼女との初めての出会い。
彼女も俺のライブに強く心を打たれ観に来てくれる熱狂的なファンであり、そしてこの場所が好きだという共通点から
度々会うこととなった。 と共に歩いたり眺めたりするこの風景。より一層美しく輝いて見えた。
がスカートをふわりとさせながら隣に腰掛けてきた。心臓が高鳴った。いつもより距離が近い気がしたから。



「綺麗なタンポポは来年の春までお預けね」



寂しげに呟かれてふと足元の地面に目をやる。あれだけ美しく咲き乱れていたタンポポ達は跡形もなく、新しい芽を出し始め
次の春までの準備をしている。ここで と肩を並べて座り、綿毛を飛ばした暖かい日々がとても楽しかった。
━━━━それが過ぎ去ると辺り一面が何となく寂しく感じる。代わりにトンボが宙を舞っていた。
秋から冬にかけての空気は嫌いではないが、



「…どうせなら春に生まれたかったな」

「あら、どうして?」

「春は綺麗な季節だろ?色とりどりだし、俺と が好きなタンポポも毎日見れるしな。」

「ふふっ、でも秋は紅葉がいっぱい咲いてて咲いててとても綺麗よ。まるで真っ赤に燃えるような熱い心で歌う貴方みたいに。
近々紅葉も見に行きましょうよ。」

「…あぁ、悪くない。」



そう来たか、と一笑する。 は俺の心を読み取るかのような例え話が上手で、これには毎回参る。
の繊細であどけない笑顔。心の奥にしまい込んだこの想いが種となって綿毛に包まれ、彼女のもとへと飛ばせられたら。
鍛えられた腹の底からこの気持ちを、思い切り伝えられたら。



どんなに、楽なんだろうか。未だに伝えられない自分が、悔しい。



「テルオさん。今度のライブはいつなの?」

「今年中には開く予定だ。」

「ふふっ、テルオさんの歌声がまた聞けると思うと自然と熱くなって、楽しみだわ。絶対教えてねっ。」

「あぁ、待っているからな。」



彼女の方に振り向いた途端、とん。と吐息がかかるほどに首筋に寄り添ってきた。髪が唇に触れる。
特有の甘い香り。戸惑いを隠せなかった。



…?」

「なに?テルオさん。」

「いや…何でもない」

「ずっとこのまま…いさせて…。」



ライブを開いているわけじゃないのに。歌を通して詩を伝えているわけじゃないのに。



近くにいる。それだけで、




今、心が、魂が━━━━熱く燃えている。



目を閉じ寄り添う の髪に触れようとしたが止めた。涼しい秋風に乗せられて
綺麗に、さらりと流れたからだ。



次のライブは、貴女への熱い愛情を込めた歌を捧げよう。



-end-






※11/1変更&修正致しました。


★ギリギリに書いた記憶が;;;余裕を持って書かんといかんことを肝に銘じたバースデー小説でした( ゚∀゚)・∵. グハッ!!
やっぱ絵より小説の方が、考えなあかんけど早く完成できるしある意味楽ですよね!!…って、どっかで言わなかったっけ?(←

テルオさんほんとシンプルでかっこよくて好きです♪(*´∀`*)フルネームの燃栄テルオ、名前もちゃっかりカッコイイ…!!


歌に気合入れるだけではなく、恋にも熱ければちょっと可愛いですよね(笑)


14.10.13