それは至って変わらないごく普通の、僕の誕生日だった。





ユーリが自分の作曲の時間を割いてまでわざわざ開いてくれた誕生日会。アッシュも も精一杯祝ってくれた。
しかし特に変わった催し物をするでもなしの、ありふれていたものだった。本当に普通の誕生日だった。
正直なところ、頬杖をしたいぐらいだった。けれどそんな態度を見せたらユーリと、いつもより豪勢な料理を作ってくれたアッシュに
後で何て文句をつけられるか分からないし、何より紅一点の存在の を悲しませたくない。なので変に怪しまれない程度に
楽しいと言わんばかりの笑顔を作ってみせて、その夜は普通に終わった。
「何か足りない」、「僕の望んでいるような誕生日じゃない。」―――― 僕の中のもう一人の僕がそう嘆いていた。




じゃあ何が欲しかったの?って、



それはもちろん―――― 分かっていた。



出会った時から。



















こん、こんと部屋のノックの音で優雅に奏でていたギターの音色が遮断された。ユーリかアッシュだろう、と思い



「だれー?」

「私だよ。 。」

「あぁ、 ちゃん。どうぞ、開いているよ。」

「ごめんね、お邪魔するね。」



ドアの向こうの声の主がまさかの で、僕の部屋に用があってそっちから来てくれるとは思っていなかったので
なんて素っ気ない返事をしてしまったんだろうと後悔。 が僕の前にちょこんと正座をしてくる。嬉しいながらも
大きな緊張が走ってきた。



「次の新曲弾いてるところだった?」

「ううん、邪魔なんて全然思っていないよ。 から僕に会いに来てくれるなんて、寧ろ嬉しくて心臓が張り裂けそうなぐらいだよ♪
…で、どうしたの?夜が怖くて眠れなくなったとか??」

「もう、そんな子供じみた理由で来たんじゃないわよっ。…ねぇスマ。最近どこか悪いの?」

「え、なんで、」

「だって今日の誕生日パーティーの時全然元気なさそうに見えたから。…気になって」



まずいな、と思った。アッシュももちろん、 も人の活気有り無しに関しては顔を見ただけで鋭く、それが既にお見通しみたいだった。
真摯と心配の眼差しで見つめられては にこれ以上の嘘は付けず、本心を言わざるを得なかった。
一定の間隔で時を刻む針の音だけが、無言の部屋に響き渡る。



「……。アッシュとユーリには黙ってくれること、約束してくれる?」

「うん。もちろん。」



改めて が座り直すのを確認してからぼそりと呟いた。



「…正直、僕にとってつまんなかったんだよね。」

「何っ!?言ったわねこの人っ!」



わざとらしく冷たくそう言ってやると予想通り彼女はむっと怒った。目をちょっと釣り上げて頬を膨らませ、、腰に可愛らしく手を当て
僕を睨みつける。こんな事言っちゃからかってるみたいでもっと怒られるかもしれないけど、その顔が微笑ましくてすごく可愛いんだ。



「せっかくユーリさんがスマの誕生日の為に開いてくれて、アッシュも私もお料理を一生懸命考えて作ったて言うのに。
嫌いな物でも入ってたの?だったらその場でハッキリ言えば良かったのに!」

「そんなのだったら既に文句つけてるよ。」

「じゃあ何が不満だったわけ?聞いてあげるから言ってごらんなさいよ。」

「……本当に言っちゃっていい?」

「えぇ、もっちろん!」



「いつでもかかってこい」と言わんばかりに堂々と胸を張ってみせる。そんな彼女に笑うといつの間にか に顔を近づけている僕がいた。
困惑する







「君自身が、――――― が欲しいってこと。」







「…えっ、どういうこ、んぅっ」



彼女の小さな顎を捉え、その潤んだ唇にぴと。と重ねる。初めて触れた、女の子の唇。ふにふにとしてとても柔らかい。
思わず夢中になってしまい、しばらく堪能してから静かにそっと顔を離すと
頬を真っ赤にして目を見開いたまま僕を見つめている。その恥ずかしい顔も、もっと可愛くて堪らないよ。



「…どういう事って、言葉通りに決まってんじゃん。」

「す、…スマ…?」

「ん?何でも話していいって言っただろ??今まで冗談ばっかり言ってきたけど、はっきり言うよ。これが僕の本音なんだ。」

「………。////」

「おぉっと、逃げようたってそうは行かないよ、ヒヒっ♪」

「きゃっ!もうスマったらっ」

「いいじゃん、誰もいないからさ」



腰に両手を回し、拘束に成功。左胸に耳を押し付けてみるととくん。とくん。と小さな鼓動。あぁ僕とおんなじように
もすっごく緊張しているんだ。耳ではっきりと聞こえる。その時、髪が優しく触れられる。 がこんな我侭な僕の頭を撫でてくれたのだ。



「じゃあ、…スマは私にどうして欲しいの??」

「そんな事……ヒヒっ、分かってるだろ?」

「何今の間。いつもの事ながら凄く気になる」

「…今夜僕と二人っきりのデートをしてくれたら、今日は最高の誕生日だったという事にするよ。」



こつん。と額同士を当てる。今度は恥ずかしそうに俯いた顔。さっきよりももっと真っ赤になっているんだろうな。
この時の僕の顔はパーティーの時の作り笑顔なんかじゃなく、心の底からの本当の笑顔で満ち溢れているだろう。
もう一度「ヒヒっ♪」と笑ってから からの返事を待つ。



「スマがそれで満足してくれるならデートしてあげるよ。」

「本当っ!? 、ぼくは最高に嬉しいよ、ヒヒヒっ♪」

「きゃっ!ちょっと、スマ!?」

「大丈夫だよ、振り落とさないから」



その嬉しさのあまりに彼女をお姫様抱っこで抱え上げた。落ちないように僕の肩にしがみつく必死な
今夜は星や月が最高に綺麗な夜だから、ロマンチックなデートになること間違いない。それも と一緒なら。



「…あ、この事も二人には黙っててよ。」

「んー、言っちゃおうかな」

っ…。」

「じょーだんに決まってるって、にしし♪」

「それ、僕のパクりだよ」



白い歯並びを見せて笑う 。……怒ってる顔やびっくりしている顔、そして恥ずかしがっている顔よりも、もっともっと可愛すぎる。
なんて眩しくて綺麗で、素敵なんだろうか。その笑顔が、僕を自然と幸福な気持ちにさせてくれる。
君の無邪気な笑顔こそが、僕にとって最高の喜び。



だから僕の傍でいつまでも笑っていて欲しい。君がこんなにも愛おしくって、大好きだから。




-end-






★今日の誕生日ギリギリに書いてしまいました;;;;;(・ω・A;)アセアセごめんねスマ;;;
最初は主人公視点の予定だったんですが流石に面白くないな、ということで。。。
やはり妖怪バンドを書くのは楽しいですね♪これだけ彼らの夢小説が多い理由が分かります(^-^*)(・・*)(^-^*)(・・*)


15.2.18