灰色の雲が青空を一気に埋め尽くした。





同時に一粒、ふた粒とどんどん増え出し





乾いた大地に降り出した、涙。





空が、泣いていた。





まるで私の心情そのものだった。







━━━━ あの人に、好きな女が居たから。















彼の異変に気がついたのは、私の誕生日を迎えるちょうど一週間前だった。他人の前で素直に笑えない私に
決してもどかしさを持たず、「焦らないでいつもの硝子でいい」とあどけない笑顔を見せてくれた彼の、冷たくなった態度。
どうして急に変わってしまったの?と話しかけても素っ気ない返事しか返ってこない。まともに相手もしてくれなくなった。
雨の日にひとつの傘で一緒に帰ってくれなかったり、家に連れ帰ってあったかいココアを作ってくれなくなった。
なんでだろう、と一人で悩む毎日に苦しめられる。しかしどんなに考えたって、答えが来るわけがなかった。



その時、見てしまった。そしてそういう事だったのか、と分かってしまった。

彼が、別の女の子と歩いていた所を。

大きな衝撃と、裏切られた絶望感。

そのまま彼を見向きもせず、暗くなった外へと飛び出していた。










━━━━ 最悪の、誕生日だ。





何分間こうして立ち尽くしているのだろう。目の前が雨のせいで霞んで見え、長い髪がぐっしょりと濡れ
下ろし立ての制服も肌に冷たく張り付き白く透けて見えた。雨粒によって叩きつけられている水たまり。
きっと雨と涙でひどい有様になっている顔が映っているだろう。今や目から流れているのは涙なのかどうか分からない。
空から降っている雨が地に流れ落ちていく。彼と楽しく過ごしてきた数え切れない思い出も、
この雨のように儚く、流れ落ちていってしまうのだろうか。
今日から私達は赤の他人同士。私と違う女の子と幸せそうに寄り添っている彼を、知らぬ顔して過ごせるのだろうか。



大好きな彼の前で、もっともっと笑っていたかった。
どんなに後悔してもいつもの優しい彼はもう帰ってこない。
溢れ出る涙が勢いを増す。同じように雨もどんどん激しくなっていく。



どうすることもできない私は、ただ空と一緒に泣くことしか出来ないだけ。




「…うっ、…ぅあぁっっ……あああああああぁぁぁぁぁっっっ………!!!」







「硝子っ」

「…っ…!」


雨が突然遮断された。後ろから広げられる傘。雨で濡れた顔で振り向くと彼 ━━ が心配の表情で私を見下ろしていた。
走ってきたのか制服が少し濡れていて息を切らせている。…もうそんな事はどうでもいい。
私には は敵にしか見えないから。何の用なの、と睨みつける。



「…こんな所で何やってんだよ、風邪引くだろ」

「……ほっといてよっ…。」

「何だよ、いきなり泣き出して急に何処かへ行きだしてっ…。早とちりが多いんだよ硝子は」



にそう言われてムカッとしてきた。私が何しようと何だろうと、貴方には関係ないでしょ。



「…来ないで。もう私には近づかないで」

「いきなり何言い出すんだよ、ちゃんと説明しないと分からないだろっ…。」

「さっきの女は一体誰なのよっ…。」

「………。」

「お願い、ちゃんと答えてっ!!嘘つきは嫌いだって事知っているんでしょ!?」

「…違うって、あいつは恋人じゃない」

「嘘よっっっ!!!!私といるよりあんなに楽しそうに喋っていたくせに!!!!!」

「落ち着けよ、硝子っ」

「私のことがそんなに嫌いだったんなら最初からそう言えば良かったのにっっ!!!!」

「硝子っ!!だから落ち着いて話を聞けってっ!!!…あいつは俺の妹だよ」

「………………っ……………。」

「それに俺がいつも素っ気なかったのは…お前に渡す誕生日プレゼントを妹と一緒に懸命に考えていたからなんだよ…
って、おいっ、硝子っ!?」



あまりの呆気なさと脱力感が二つ同時に襲う。膝から崩れ落ち、バシャッと制服を汚してしまった。上手く立てない私の腕を
が慌てて引っ張ってくれた。



「大丈夫かよ」

「…っ…それならそうと早く言ってよっ…」

「お前が急に行ってしまうからだろ…。」

「あんなの見たら誰だって恋人だって思うじゃないっ。…もう、バカ っっ…」

「バカって、そりゃ無いだろ…………ごめん。悪かった、硝子」



ばつが悪いように謝る 。そして私の手を取ると「これ」と言って何かを持たせた。広げてみると
あまり大きくはなかったけど綺麗なデザインが施された小さなコンパクトミラーだった。
思わずそれに見入ってしまう。 を見るといつもの優しい、優しい笑顔を見せてくれた。



「誕生日、おめでとう。」

「……わた、しに………?」

「当たり前だろ、今日は硝子の生まれた日なんだから忘れてるわけないだろ。選ぶのに結構苦労したんだよ」

「………きれい…」

「良かった」



満足したようにそう笑ったあと、ゆっくりと私を引き寄せ、そしてぎゅっと抱きしめた。
降り続く雨の中で。制服の生地が張り付き、すっかり冷たくなった肌に の体温が暖かく包み込んでくれた。



「お前以外の女を好きにならないから。━━━━愛してる。硝子。」

「!……」



本当ならここで泣くべきだった。彼の胸にしがみついてわんわん泣きたかった。けど…出し切ってしまったせいか
不思議ともう涙は出なかった。代わりに笑顔が、零れた。大好きな彼に見せることはできなかったけれど
本当の、笑顔が。そして私の素直な気持ちを。精一杯、伝えた。



「私も愛してる。 。」













「帰ろう、硝子。」

「うん」

「あったかいココア作ってあげるから。」

「ありがとう。」



ひとつ傘の下、雨で濡れた帰路を私と彼、寄り添って歩く。


まだまばらだけど、


空が泣き止んだような気がした。



-end-





★硝子さんかぁいいよ硝子さん(*´∀`*)何故「ガラス」って入力しないと「硝子」って出ないのか(だからそこかいっ!!)
ブラックさんの時もそうだったけど、こういう影のあるキャラは話が考えやすい反面、文章がまとめにくいという………(死!!)
果たして硝子さんがちゃんと素直に笑える日はいつ来るのか…。けど普段の硝子さんも可愛いですけど♪(何言ってんだこいつ)

………どぉぉぉ〜〜〜も、最後のend前の文章はしんみり来ないよね…なんでだろう………orz


14.12.16