私はこの水晶の塔に幽閉されている。長年もの間。ずっと。ずっと。



物心ついた頃から自由を奪われた私は太陽の光を体いっぱい浴びることさえ許されなかった。
だから外の世界を知らない。どんな自然が作られているのか。その中でどんな人たちが、どんな生活をしているのか。
唯一の話し相手である兵士、召使達から教えられた記憶なんて無いし、あったとしても不確かな内容ばかりだった。
今日も四角の枠に切り取られた窓から外を見つめている。地上で行き交う人々。澄み渡る青空を飛んでいる鳥達。
あの人達は今どんな気持ちで色んな人と接しているのだろう。あの鳥は今どんな気持ちで羽ばたいているのだろう。
私の背中に翼が生えたら、この籠から抜け出してどこまでも飛んで行きたいと何度願ったことだろうか。
時折持ってきてくれる赤い薔薇。私の壊れかけそうな心を支えてくれた。諦めずに凛と咲こうとしている。私も生きねば、と。
…薔薇よ。あなたの住む場所は限られているけど、摘まれる前の世界はどんな世界だったの…?
そんな、心も体も私の人生も完全に束縛された、陰鬱に包まれた無限の毎日。



誰でもいい。誰かこんな私を、窓の向こうへと連れて行って…














。一体何処へ連れて行くの?」

「まだ目を開けてはなりませんよ。ローズマリー様。」



塔に兵士として仕えている一人・ に手を取られ、おぼつかない足取りで地をひたすら歩く。
視界は真っ暗で覆われて、今城の何処を歩いているのか見当がつかなかった。
がいいと言うまで私は目を閉じているのだから。薄く目を開けようとしたらダメですよ。と何度も注意された。
途中何かが足元に躓いた。これは…石?



「こ、怖いわ、

「私の腕に捕まっていれば大丈夫ですよ。」



今の私にはこうして の腕にしがみつくことしか出来なくて精一杯だった。まだ真っ暗闇で何も見えない。
しかし見慣れている塔の中ではないことは明らかだった。私がいつも吸っていた空気とは全く違っていたから。
何だろう、どこか清々しいような、心が洗われるようなそんな匂い。私が許される場所は限られているのに、
一体瞼の向こうは何が映っているのだろう。 は何を見ているのか。私は今、何処にいるのか。
そんな不安と何も見えない恐怖ばかりが頭をよぎる。 が歩を止めたので私もつられて立ち止まった。



「さぁ、もうよろしいですよ。」

「………っ……まぁ、……信じられないっ………。」



瞼をようやく開き暗闇から解放された瞬間、見たこともない世界が私の目の前に広がっていた。
冷たい壁と床に囲まれた殺風景な塔の内部、ではなく色鮮やかに彩られた幻想的な風景。
遠くにそびえ立つ緑の山々。吸い込まれそうで広大な青空。心地いい風。足元には好きな赤薔薇が一面に咲き乱れている。
今まで本の挿絵でしか見たことなかった、私の知らない世界。想像していたものよりもこんなに壮大で、そして美しかったなんて
塔に閉じこもっていた自分がとても恥ずかしい気持ちで一杯だった。楽園、―――私にとってまさにその言葉が合っていた。
にっこりと微笑んでいる に声をかけられるまでは、私はしばらく言葉が出ずに初めて見る風景に見入っていた。



「外の世界を見てみたい、と以前からおっしゃっていたでしょう?」

「え、…えぇ、確かにそう言っていたけど…まさかそんな、本当に」

「私から貴女様へのお誕生日プレゼントです。おめでとうございます、ローズマリー様。」

「…嬉しい…、貴方に何てお礼を言えばいいのか…。ありがとう、 。」

「いいえ、貴女様にお仕えする身の当然の行いでございます。」



毎年贈ってもらう赤薔薇の束よりもまさに夢のような贈物だった。生まれて初めて私に与えられた、自由。
世界中を照らす太陽の光。体中が包まれそうな程に暖かく、涙が出るくらいにすごく眩しい。
あぁ、私は生きている。そう実感した時、自由ってなんて素晴らしいんだろうと。こんなに思った事は一度も無かった。
今、あの鳥になったような爽快な気持ちだ。この感動を私は一生忘れない。
この事は内密に、という条件で私を束縛という鎖から解き放してくれた 。貴方がいなければ、きっと私は―――。



。私を此処以外の場所へともっともっと連れて行って下さる…?」



ここで見納めにしたくない。その表情が見て取れた は当然望まない顔をした。他の兵士達に懇願しても皆同じだった。
その気持ちは分からないでもないけど、私だって貴方達と同じ人間。
この先夢や望むものだって数え切れない程にたくさんある。いつまでも子供じゃないし、束縛された人生をもう歩みたくない。



「いつまでも閉じ込められてばかりの生活じゃ、未来の自分が許されない気がするの。私の言いたい事が分かるでしょう…?」

「…しかしローズマリー様。お気持ちは痛いほど分かりますが、貴女様が思うほど外の世界は必ずしも
美しいものばかりとは限りません。これ以上大切な貴女様を危険な目に遭わせる訳には…」

「そんな事は百も承知だわっ!!」



思わず声を荒らげてしまい、しまったと思った時は は何も言わないまま目を丸くして私を見つめていた。
こんな私をどうしようもない我侭な女だと思っている。自分でも分かっていた。…嫌われてしまう。
見捨てられて孤独の世界に取り残される事は耐え難い恐怖だった。
けれど は怒りもせず、優しく笑ってくれた。



「仰せのままに致します、ローズマリー様。貴女様の望む場所、この私が何処へでもお連れ致しましょう。」

「… …」

「この命に代えても、必ずや貴女様を…お守り致します。」

「…ありがとう 。私の我侭を…聞いてくれて…」



赤い薔薇が咲き綻ぶ中心で。抑えきれない嬉しさが込み上げ、堪らず の頭をそっと抱き寄せた。



「私はいつでも貴女様の味方です。ローズマリー様。」

「ありがとう。本当に、ありがとう…。」



何も知らない、何も出来ない私はこうして抱きしめてあげることしか出来ないけれど。
大切な宝物のように の髪を優しく撫でた。ずっと…いつまでも傍に居てね、と。



-end-






★小説を書くと、そのキャラクターの気持ちになれますから絵を書く時とちょっと違う楽しさがありますね♪ヽ(*´∀`)ノ
ラピストリアちゃん、今のところローズマリー様のようなふつくしい新キャラはおりませんな(ま た そ の 話 か)
ローズマリー様の曲がかっこよすぎて毎回欠かさず選んでいますvvTERRAさん大好きだったのに
一体いずこへ行ってしまわれたのか…(´;ω;`)

口の中に白い斑点が3つも出来て泣きたいぐらいに超ぉぉぉ〜〜〜〜〜痛いです。(しかもいつもの奥の方ではなく
手前の方。(いつもなのか))薬の塗り過ぎで口が継ぎ接ぎ状態になってます;;;


15.1.10