━━━━恋人と初めて喧嘩をしてしまった。


自分勝手な彼の行動に腹が立ち、


彼が止めるのも聞かずに


私は旅館を出て行ってしまった。


寒い、寒い山道。


降り積もっていく雪の中を一人、歩きながら


・・・私は今、


激しく、後悔している━━━━



「 誓 い 」





━━━━━2時間前。━━━━━




















━━━━「えっ・・・・・・また修行!?」




久々に六との旅行。旅館にて。これから夕焼けを見ながら一緒に散歩に行こうとした直前に、
彼がいきなりそんな事を言いだしたのだ。私は呆れた表情で、日本刀片手に出かけようとする六を見る。

「おぅ。また暫くは戻らねぇぞ、。」

「そ、そんな・・・たまには一日抜けたってどうってことないじゃないっ・・・。」

「俺の場合は毎日修行しねぇと体がなまっちまうんだよ」

・・・・・・・・・。なんでそこまで頑固なんだろう・・・。せっかくの二人だけの楽しい旅行なのに・・・。たまにはいいじゃない・・・。
どこまで冷たい人なの・・・?彼は一旦修行に出てしまうと、しばらく帰ってこないケースが多い。
私は重い溜息をついて、六を見つめながら・・・・・・ぶすっとして呟いた。

「・・・・・・・・・・・・じゃあ、私・・・・・・また、留守番なわけ・・・・・・?」

「おう。一人で景色を楽しむのもいいもんだぞ。いい子にしておけよ。」

「・・・・・・・・・っ・・・・・・・・・。」

最初は六なりの都合なんだろう、と考えて何も文句は言わなかったけど・・・一日だけならまだしも、
それが毎回のように繰り返されている。・・・・・・・・・私は六の冷たい態度とそっけない言動に
━━━━遂に怒りを爆発させた。


「もうっっ、いい加減にしてッッッ!!!!!!」


「!?・・・なっ・・・・・・んだよ、何急に怒鳴ってんだよっ・・・」

私の突然の変わりざまに驚く六。涙の入り混じった声で・・・。

「『急に』じゃないわよっ、前々から言いたかったことよっっ!!!・・・っ・・・何よっ、せっかく六と一緒にいれると思ったのに
修行、修行、修行ってっっ・・・・・・!!この前も・・・その前の日も・・・ずっと、ずっといっつもそうやって同じことばっかりでっ・・・
私よりそんなに修行の方が大事だって言うのっっっ!!??」

「・・・何っ・・・言って・・・っ・・・」

「・・・・・・っ・・・・・・六がそんなのならっ・・・・・・私たちは一体何のための恋人同士なのよっ・・・私は貴方の何だって言うの!!?
玩具だったのっ!?体が目的だったのっっっ!!!??」

「ちっっ・・・・・・・・・っげーよ、んなわけねーよっっ!!俺は」

「何が違うのよっ、いつも私をほったらかしているくせにっ!!!もういいっ、分かったわよっ、自分勝手な人の話なんか
聞きたくないわっ、勝手にすれば!!?・・・・・・っ・・・・・・ずっと、・・・ずっと、信じてたのにっっっ・・・・・・

六のバカっっ!!!六なんて大っ嫌い!!!!!」


そう叫ぶと、私は部屋の襖を思い切って開け、部屋から飛び出した。

「待てっっ、っっ!!っっっ!!!!」

彼の呼び止める声が響く。けど私は振り返りもせずに、涙を数滴落としながら六のいる旅館を後にした。━━━━






























━━━━「・・・本当に何考えてんのか・・・・・・・全然読めない」


彼と一緒に見たかった夕日はすっかり消えて無くなってしまい、外はどんよりと暗くなっていく。
旅館からだいぶ離れてしまった見知らぬ山道。雪が残っている道を踏みつけながら、私はただあてもなく彷徨っていた。

「・・・男って皆、都合のいい時だけ調子に乗って・・・あとは勝手。」

六もその内の一人なんだ、と知った以上・・・私には失望の塊にしか見えなかった。重く、大きなため息が涙のせいで震えた。
同時に白い息が吐かれた。

・・・本当ならこんな形で六と別れたくなかった。もっと・・・もっと恋人らしい事がしたかった。二人で楽しい思い出が
作りたかった。
よくよくちょっかい出したり、からかったり、意地悪な所が多かったけど・・・そんな子供っぽい六が好きだったし、
かっこよくて勇ましい六が、大好きだった。



━━━━━━━━あの、事件以来。・・・━━━━━━━━



「・・・・・・・・・・・・っ・・・・・・・・・っ・・・・・・・・・・・・・・・・。」

こんな・・・運命だったんだろうか・・・・・・。この悲しみは・・・当分消えることはないだろう。六と一緒に過ごした日々が懐かしくて・・・
恋しくて・・・ ・・・・・・余計悲しくて・・・・・・・・・。涙が止まらない。雫がぽた、ぽたと雪の中に沈んでいった。

「・・・いいもん・・・もう六なんて・・・知らないんだからっ・・・・・・・・・。」

・・・今更旅館に引き返したって・・・ぶっきらぼうな六がいるだけだ。戻りたいと思わない。もちろん謝る気は更々無い。
彼が悪いんだ。・・・それにここら辺は他にも旅館がたくさんある。荷物は置いて来てしまったけど・・・
別の旅館を決めてから後で取りに来たらいい。そこに泊めてもらって、明朝家に帰ろう・・・。・・・うん、そうしよう・・・。
そう決めた直後だった。


「・・・・・・・・・・・・あれ・・・・・・?そういえば私・・・どこから来たんだっけ・・・・・・・・・・・・?」

ハッと我に返った時。気が付けば私はだいぶ山奥に入ってしまったらしく、木々がたくさん並んでいた。
色々考え事をしている間、無意識に足が進んでしまい、道がたくさん枝分かれしている場所まで来てしまった。
周りは完全に暗くなってしまい・・・雪がサラサラと舞い落ちてきた。

「・・・っ・・・い、いけないっ、早く、こんなところっ・・・・・・離れないとっ・・・・・・!」

私は危機を感じ、急いで山から降りる術を必死に探しまわった。けど・・・帰り道なんて分かるわけがない。
それどころかどんどん奥へ、奥へと入っていくような、そんな気がしてならないのだ。

「・・・・・・・・・・・どっ・・・・・・・どうしようっっ・・・・・・・・・か・・・・・・・・・帰れないっっっ・・・・・・・・・!!!」

その時、今まで穏やかだった気温が急激に下がり、厳しい寒さが襲う。雪の粒が私の体を冷たく濡らしていく。
体温が・・・どんどん奪われてゆく。とうとう体力の限界を感じ、これ以上歩くことができず、その場に跪き
そのままうずくまってしまった。・・・・・・完全に大雪の世界に・・・閉じ込められてしまったっ・・・・・・・・・。
そう知った途端、私に逃れられない戦慄と混乱が走り出し、そして


━━━━激しく、後悔した。




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ・・・・・・・・・・・・っ・・・・・・・・・たす、・・・けてっっ・・・・・・・・・ 六っっ・・・・・・・・・。」


恋人の名をか細い声で呼ぶ。けどどんなに私が必死に泣いて助けを呼ぶことができたって・・・・・・・・・
彼はすぐに飛んでくれるわけが無い。叶わない願いだった。だって・・・・・・・・・
「バカ」や、「嫌い」なんて言い残して出て行ってしまったからっっ・・・・・・・・・・・・・・・。
きっと、彼も今頃怒ってこんな私を・・・探しに来てくれないだろうっっっ・・・・・・・・。


・・・・・・・・・私は大好きな六にっ・・・なんて勝手な事を言い出してしまったんだろうっっ・・・・・・。
最初からあんな喧嘩なんかしなければ・・・こんな事態にならなかったのにっっ・・・・・・。
私が・・・六を傷つけてしまった。私の方が・・・・・・悪いんだっっ・・・。深い絶望と・・・深い、罪悪感。

声に出して泣いてしまった。どっと溢れ出し、次々とこぼれ落ちていく涙を止めることなんて、出来なかった。



━━━━━━━━胸元の傷跡が、ズキンと、痛む━━━━━━━━



「・・・っ・・・・・・・・・・っ・・・・・・・ごめんなさいっ・・・・・・ごめんなさいっっ・・・・・・六っっっ・・・・・・・・・・。」


━━━━次の瞬間。私は恐怖のどん底に陥った。

「・・・!!!!・・・・っ・・・・・そっ・・・・・・・・・ん、なっ・・・・・・・・・・・。」


背後に一匹のおぞましい獣が唸り声を上げながらゆっくりと近づいてきた。・・・一匹だけじゃない。
数匹の獣たちが獲物を狙うような目をぎらりと光らせて、私をぐるりと取り囲んだ。
ど・・・・・・・・・・・・どうしようっ・・・・・・・・逃げられないっっっ・・・・・・・・・!!!

「(・・・いっ・・・・・・嫌っっ・・・・・・・・・おねがいっっ・・・・・・来ないでッッッ・・・・・・・・・!!!!)」

私はそう叫びたくても叫べなかった。恐怖と混乱でパニック状態に陥り、呼吸困難になり、体はとうとう動けなくなってしまった。
口を虚しく開閉させるだけで、声に出せない。獣たちは私を鋭い形相で睨みつける。



━━━━━━━━あの事件が、走馬灯のように、頭の中を、駆け巡る━━━━━━━━



そのうち、獣の数匹が激しく吠えながら鋭い牙をむき出しにし、物凄いスピードで私に飛びかかってきた。
・・・こんなところで死ぬなんてっっ・・・・・・・いやっっっ・・・!!!!私は目をギュッと閉じた。
涙がこぼれ落ちた。


・・・・・・六っっ・・・ごめんなさいっっ・・・もう、私・・・わがまま・・・絶対、言わないからっっっ・・・おねがいっっ・・・・・・





━━━━━━━━ あの時みたいに・・・・・・・・・助けに来てっっっっ・・・・・・・!!!!!━━━━━━━━









━━━━「ギャアァァッッ!!!!」


「・・・・・・えっ・・・・・・・・・?」

悲痛な叫び声が響き渡る。恐る恐る目を開けてみると、獣たちが何かに切り裂かれ、血を噴き出し地面に倒れた跡。
そして・・・私の目の前には、首をマフラーで巻きつけた着物姿の男性。闇の中で、鋭い光を放つ日本刀。
その人は赤い瞳を私に向けた━━━━


「・・・っ・・・・・・!!!ろ、・・・六っっ!!?・・・」




「━━━━。絶対離れんじゃねぇぞ」

「うっ、うん・・・!」

私は六の後ろに隠れる。獣たちのの恐ろしい唸り声。怒りの眼差しが六に一点集中する。けど六は一向に怖気付くことなく、
私を守るように、獣たちの前に堂々と立ちはだかった。白く眩い日本刀の刃をギラリと、向けさせて。

「・・・おらどうした、かかってこいやケダモノ共がっっ!!!」

六の挑発が合図かのように、獣たちが一斉に襲いかかる。

「俺にかかろうなんざ、千年早いんだよッッッ!!!!!」

六は日本刀で獣たちを次々と薙ぎ払っていく。
どんどん倒れていく獣。その時、一匹の獣が私の方に襲いかかってきた。

「い、いやぁぁっっ!!!」

「おらあぁぁぁっっっ!!!!」

六が私の叫び声に気づき、振り向き様に獣に一発蹴りを加える。怯む獣。
他の2,3匹は六の圧倒的な強さに怯え、尻尾を巻いて逃げ出してしまった。━━━━











━━━━「っ、怪我ないかっっ!?」

「・・・っ・・・六ぅっっっ!!!!」


・・・助けにきっと来ない、と思っていた彼が・・・・・・本当に助けに来てくれたっっ・・・。
彼の顔を見たとたん、嬉しくなって、涙をいっぱいこぼしながら彼の胸に飛び込む。
六はそんな私を激しく、抱きしめてくれた。

「・・・・・・っ・・・・・・六っっ・・・・・・わたしっ・・・・・・ずっと・・・ずっとっ・・・・・・怖かったっっ・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・良かったっ・・・無事でっっ・・・。」

六の着物を力強く引っ張る。私の頭を優しく撫でてくれる六。再会を喜び合った━━━━・・・のも束の間だった。

「・・・と、言うとでも思ったか、ばっきゃろぉっっっ!!!!!」

と言うといきなり私の頭を思いっきりバシンっと平手打ちした。

「Σ痛いっっ・・・!!!;;;」

「・・・っ・・・ったく、散っっっ々世話焼かしやがって、この阿呆がっっ!!!こんなところで何をうろちょろ
ほっつき歩いてやがったんだ、2時間も探し回らせやがって!!!しかもちゃっかりケダモノ共に襲われやがってよっ!!?
余計に面倒事増やすんじゃねーよっっっ!!!!」

六が怒りたくなるのも無理はない。・・・けど六の相変わらずの乱暴な言葉遣いに思わずムカッと来、つい反論してしまった。

「・・・なっ、何よいきなり殴るなんて最低ねっっ!!!少しは再会を喜び合ったらどうなのよっっっ!!」

「はぁっ!?再会ぃ!!?これが再会を喜ぶところか!!!もし俺が今頃探さなかったらどこ行くつもりだったんだ、
ここでずっと待ちぼうけするつもりだったのかっっ!!?」

「元々は貴方が蒔いた種なんでしょっ!!!修行とか勝手なこと言わなかったらこんなことにはっっ・・・!!」

「お前が勝手に出ていくのが悪いんだろっっ、俺はお前に出て行けと言ったかっっ!!!??」

「似たようなものじゃないっ、六だっていつも私を置いて出て行くくせにっっ!!!だいたい貴方は━━━━・・・!!うぅっ・・・。」

「!!おいっ、っ!!?」

大きな疲労が雪崩のように襲い、バランスを崩してしまう。六は慌てて私を支えた。

「・・・っ・・・・・・・・へ・・・平気っ・・・。ちょっとっ・・・ふらってなった、だけだからっっ・・・・・・。」

「お前、まさか熱でもあるんじゃないのかっ?」

すると六は自分の額を私の額にいきなり当ててきた。


━━━━ぴた。


「・・・!!やっっっ・・・・・・////」


ちょっっっ・・・・・・・・・っと、顔が、近すぎるっっっ・・・・・・!!!寒さが吹き飛ぶぐらい顔と体が熱い。
しばらくの間、ずっとこのドキドキの状態が続く。・・・今にも・・・キスしてしまいそうなっっ・・・・・・。

・・・そしてようやく額が離されて・・・。

「・・・ん。大したことはねぇみたいだな、良かった。」

「・・・・・・・・・。」

相変わらずの・・・冷たい反応。もうちょっと、大げさに心配してくれたっていいじゃない・・・。
けど、さっきの六の行動は・・・・・・正直、嬉しかった気がした。
その時、六が自分のマフラーを外すと「ほら。」と言って私の首に巻きつけた。

「え・・・・・・」

「今まで寒かったろ。着けていけよ。」

「・・・・・・・・・。////」

・・・体が温かい。心の芯まで温もる。今まで凍え死にそうだった寒さが・・・嘘のように。
そして六は私の肩をギュッと抱きしめ・・・

「!・・・」

「もう二度と一人で出歩くなよ。・・・帰るぞ。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

・・・やっぱり優しいのか、相変わらず冷たいのか、どっちなのか分からない。聞きたいこと、言いたいことがたくさんあったけど
今はそんな話せるような状況じゃない。
雪の降る中、私は六に肩を抱かれたまま、静かに山を降り始めた━━━━





























━━━━「・・・・・・・・・・・・ふぅ・・・・・・・・・・・。」


安堵の溜め息が白い息となって湯気と共に夜空へと消えていく。

旅館の部屋の奥に設置された小さな露天風呂。雪の結晶が静かに舞い降りてくる。湯の流れる音。
冷えた体を温め、ゆっくりと清めながらすっかり暗くなってしまった風景を眺めていた。徐々に回復していき、
生き返った・・・と実感した。
・・・ちなみに六とは・・・あれから一言も口を利いていない。六からも何も話してこない。お互い無言のままの帰宅だった。

。」

「・・・・・・・・・・・・。」

戸の向こうから六の声。私はあえて返事しない。

「入るぞ」

「(えっっっ・・・!!??)」

ガラリと戸が開けられて六がいきなり入ってきた。

「!!!!!ちょっっっ・・・っと、何、勝手にっ、入ってきてっっ・・・・・・!!!!」

「返事しねぇから、いいのかと思ったぜ。」

「よっっっ・・・良くないっっ!!!す、すぐに上がるからっっ・・・」

「遠慮すんなって」

と言いながら慌てて上がろうとする私を無理やり湯に浸からせた。

「・・・・・・・・・変なこと・・・してこない・・・?」

「変なことって何だよ。」

「・・・・・・・・・体、触ったりとか」

「は?恋人同士だから別に構わないんじゃねぇのか」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え六。」

「んー?今のは聞き捨てならねぇ発言だったなぁ??」

「何でもないですっ。」

・・・・・・うぅっ・・・。お互いタオルで巻いているから良かったものの、もしど片方か両方がすっぽんぽんの状態だったら・・・
・・・いや、それ以上言わないでおこう・・・・・・・・・。。。
私の隣にジャブっと腰掛ける六。二人肩を並んで、何気なく遠くの風景を眺めた。湯気がもくもくと上へと上って行く。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

・・・・・・・・・お湯の流れる音だけが虚しく周りに響く。私と六はお互い喋ることなく、ただ黙って湯に浸かっていた。
やっぱりあの出来事のせいなのか、・・・気まずい空気が流れる。私は黙っているのが耐えられなくなり、
話題を振ってみた。

「・・・すごいね、六って。」

「あ?何がだよ。」

「あんな深い山の中なのに・・・よく私が見つけられたなぁって・・・思って・・・。」

「あぁ、あの山も修行の場として使ってるからよ。庭みてーなもんだよ。」

「そうなんだ。すごいね。」

「・・・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・・。」

・・・いつもより会話が短い。続かない。そこでぷっつりと途絶えてしまった。またも沈黙の時間が流れる。
・・・長い間付き合ってるのに・・・ なんだかお互い別人同士って感じがして・・・・・・空気が凄く重たい。
入ってきたばかりの六には悪いけど・・・先に上がらせてもらおうと思った直前だった。

「・・・なぁ。」

「え、なにっ??」

「・・・・・・・・・お前さんの話したいことはそれなのか?」

「・・・・・・・・・・・・。」

六の今までにない穏やかな声。だけど少し刺を感じるような口調だった。じっと私を見つめてくる・・・。

「・・・俺に文句のひとつやふたつぐらい・・・あるだろ」

「・・・・・・。」

「・・・話せよ。何でも聞いてやるからよ。怒りはしねーから」

・・・いきなり話せって言ったって・・・。もし2,3時間前の私なら文句をたらたらこぼしていただろう。けど・・・
あの時みたいに怒るような元気はもう失くなってしまった。私は呟くように今までの疑問を投げかけた。

「・・・・・・六ってさ・・・。」

「おぅ。」

「・・・結局、どっちが大事なわけ・・・?私と・・・修行と・・・・・・どっちを取るの・・・?」

「・・・・・・・・・・・・。」

カッコつけた言葉は言わなくてもいい。ただ短く、単純に、「お前だ」と言って欲しかった。
なのに・・・どうしてそこで黙るの・・・?どうして・・・迷う必要があるの・・・?私は半分諦めたようにこう発言した。

「・・・・・・修行なら修行って・・・素直に答えてもいいのよ?修行に没頭している六がカッコいいし・・・
貴方らしいから・・・。」

「・・・・・・・・・。」

「さっきの襲ってきた獣たちも・・・六の修行の為にちょうど良かったものね。もし居なかったら・・・
六、絶対私のことなんか」

「その・・・傷痣・・・・・・。」

「え、え?」

「・・・まだ・・・残ってんだな。」

「・・・・・・・・・。」

・・・わざとなのか分からない。すぐに話題をそらす六は好きではなかった。六の視線の先を追うと・・・
左胸元に斜め直線に描かれた大きな傷の痣。だいぶ目立ってしまったけど・・・命に別状は無い結果となった。

「あ・・・あぁ、これ?うん、けっこう、目立っちゃうのよね。でも、大丈夫、痛みはだいぶ引いたし・・・」

「・・・・・・・・・・・・ごめん・・・。」

「え・・・?」

「・・・・・・ごめん・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・六・・・・・・?」

今日の彼・・・なんか変・・・。だってあの六がいきなり謝ってきたから・・・。一瞬今日の出来事の件で謝ってきたのかと
思ったけど・・・・・・そうじゃないみたい・・・。六の顔を見ると・・・・・・今まで見たことがない、沈痛な表情だった。

「・・・っ・・・俺が非力なばかりに・・・お前を・・・あんな危険な目に合わせちまってっ・・・・・・。
だから・・・・・・・・・・・・ごめんっっっ・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・。」

こんなに謝る六・・・見たことがない・・・。私はどう受け入れればいいのか分からず、その場で困惑してしまった。

「・・・っ・・・だ、大丈夫よ、そこまで・・・大した怪我じゃないし・・・六が助けてくれたおかげで死なずに済んだから・・・
別に、貴方のせいじゃな・・・」

「俺のせいなんだよっっ!!!全部俺が悪いんだよっっっ!!!!!!!」



「ろ、・・・・・・六っ・・・・・・・・・?」


六の・・・自分を責める声が辺りに響く。突然の彼の変わりように今度は私のほうが驚く。
ただ呆然と・・・見つめるしかなかった。六の肩と拳が・・・プルプルと震えている。

「ど・・・どうしたのっ・・・いきなりっ・・・。」

「・・・っ・・・なんでそんな平気に・・・笑ってられんだよっっ・・・・・・あの時のお前は・・・死にかけだったんだぞっ!!?」

「・・・・・・・・・っ・・・・・・。」

「あん時・・・数人の盗賊に襲われてっ・・・お前は致命傷を負って倒れてっっ・・・必死に泣いて助けを求めていた
じゃねぇかっっ!!!・・・・・・・・・っ・・・・・・・・・今でもっ・・・忘れられねぇんだよっっ・・・お前が涙をぼろぼろ流しながら
俺の名を何度も何度も呼んでいたっっ・・・あの時のお前の姿がっっっ・・・・・・!!!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・お前は勿論知らねぇし・・・こうして一命を取り留めたから今はなんとも思ってないかもしれないがっ・・・
俺は・・・どれだけ悩んだかっっ・・・自分の力の足りなさにっ・・・
そしてどれだけ悔みっ・・・どれだけ自分を激しく責めたかっっ・・・・・・!!!愛する女をこの手で守れなかったっ・・・
悔しさをっっ・・・弱さをっっっ・・・・・・!!!そんな俺がっっ・・・・・・許せなくてっ・・・・・・腹が立ってっっっ・・・・・・!!!」

「・・・っ・・・・・・。」

「・・・もっとっ・・・もっと、俺に力があればっっ・・・・・・お前を・・・痛い思いをさせずにっ・・・済んだはずだったんだよっ・・・
なのにっっ・・・・・・俺はっっ・・・・・・!!」

「・・・・・・六・・・・・・。」

「・・・・・・・・・お前が出て行って必死に探しまわった時も・・・・・・・・怖かった」

「・・・こわ、かった・・・・・・?」

「また・・・あの時みたいにっ・・・・・・お前を・・・傷つけてしまうんじゃないか・・・失うんじゃないかってっっ・・・・・・
死に物狂いになってっ・・・・・・。」

「・・・っ・・・あ、あれは・・・私が悪」

「お前をっ、をっっ・・・二度と失いたくねぇんだよっっっっ!!!!!!!!」


 ━━━━・・・・・・・・・・・・っ・・・・・・・・・・・・・・・。


「・・・・・・・・・俺にとって、大事なものは・・・・・・・・他でもねぇ」

・・・そう言うと、六は私に向かって手を伸ばし・・・
━━━━静かに、力強く、私を抱きしめた。

「・・・!・・・・・・」


「お前一人なんだよ・・・


「・・・・・・・・・っ・・・・・六っ・・・・・・・。」

「・・・あの日・・・誓ったんだ。この身が・・・たとえボロボロにされ、傷つけられ・・・どんな災難が訪れようとも・・・
修行して、もっと強くなってみせる。愛するお前の為に。だから・・・


━━━━。俺はお前を、死んでも守る。」


「!・・・・・・・・・・・・・・」


耳元に囁かれる・・・「おまえを守る」という言葉。響き。優しさ・・・。お湯の温度が私達の体温を一気に上昇させてくれる。
ぎゅっと強く抱きしめ、私の頭を優しく撫でさすってくれる六。私の顔と体は・・・激しく火照っていた。

今までの六のそっけなく、ぶっきらぼうな態度・・・私はもう、・・・嫌われたんだとずっと思っていた。自分でも・・・分かっていた。

我侭で、振り回してばかりいたこんな私のために、・・・ずっと・・・ずっと悩んで・・・・・・

そして・・・守る、と約束してくれるなんて・・・

こんな、こんな・・・私の、為にっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・涙が一気にあふれた。今まで六に好き勝手な事ばかり言ってきた自分を激しく恨んだ。そんな自分に腹たった。
そして何より・・・・・・嬉しかった。
大声で泣きたい気持ちを堪え、六の逞しく、盛り上がった肩に顔を埋め・・・強く、強く抱きしめた。涙が、ぽろぽろと落ちていく。

「・・・っ・・・・・・っ・・・・・・・・・・・・・・・ごめんねっっ・・・ろくっっ・・・・・・。」

「ばかやろ。なに泣いてんだよ。・・・泣き虫だなお前は。」

「・・・・・・・・っっ・・・・・・・・・だっっ・・・・・・・・・てっっ・・・・・・・・・」

六は私の頭をよしよしと撫でながら頬を擦り寄せてくれる。

「・・・っ・・・六のっ・・・・・・気持ちも知らないでっっ・・・・・・・・・ひどいことばっかり言ってっっっ・・・・・・・・
いままでっっ・・・・・・・・・ほんとにっっ・・・・・・・・・ごめんねっっ・・・・・・」

「・・・・・・俺の方も・・・・・・の気持ちを踏みにじってばかりで・・・いつも淋しい思いをさせて・・・・・・
・・・・・・・・・・・ごめんな・・・・・。」

「・・・・・・っ・・・・・・ごめんねっっ・・・・・・ろ、くっっ・・・・・・ごめんねっっっ・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・謝るのは一回きりでいいんだよ」

そして・・・ありがとう。・・・までは言えなかった。涙のせいで。六の肩を涙で濡らしてしまったけれどそんな事、構いやしなかった。
声が震え、泣きじゃくってしまった私を 六はニッコリと微笑みながらずっと、ずっと抱きしめてくれた。私が泣き止むまで、ずっと離れないでいてくれた━━━━























━━━━その後。私と六はすぐに床に就くわけもなく、部屋のベランダですっかり暗くなった雪景色を二人、眺めていた。
片手に杯を持ちながら。・・・といっても中身はいつもの、六の大好きな辛口日本酒ではなく、ただのお水。
六が何となくお酒を飲んで一杯する気持ちじゃないらしく、私もお水を飲むことにした。六は私に気を遣って、
「お前さんは酒を飲んだって構わないんだぜ」と言ってくれたのだけど・・・何となく六と一緒の行為がしたい。
肩を並べて、お水を飲みながら風景を眺めていると、不意に名前を呼ばれた。

「・・・。」

「なに?」

杯片手に、無言で私をじっ・・・と見つめる六。無表情だけど・・・見つめる赤い瞳が、真っ直ぐ私を捉えていた。
思わずドキッとなって、六を見つめる・・・・・・

「・・・えっと・・・・・・何??」

「・・・呼んでみただけ」

「・・・ふふっ、変な人。」

私はクスッと笑いながら俯く。・・・・・・・・・。もう一度彼を見なくても分かる。
六は・・・私が視線を逸らしてもまだ見つめ続けているから。


・・・・・・・・・・・・・。なんでだろう・・・いつもこうして肩を並べて杯を交わしあって、特になんとも思ってないのに・・・・・・
今日はなんだか・・・・・・凄く恥ずかしくて・・・・・・とてもくすぐったい。それに今・・・何故かドキドキしている。
私はこれ以上長くいてられないような気がして、空の杯を静かに置き、ゆっくりと立ち上がった。

「・・・・・・じ、じゃぁ、私・・・もう、先、寝るからっっ・・・。」

「おやすみ」と言おうとした直前だった。


━━━━がしっ。


手首を、強く掴まれた。驚いて振り向くと、六が真剣の眼差しで私を見つめる。そして強引に私の体をぐいっと引き寄せた。
顔と顔が、・・・近いぐらいに。

「!きゃっ・・・ろ、六っ・・・?」

眼前に六の顔。まるで私を逃がさないというように腰に六の手がかけられている。・・・・・・心臓が大きく、
ドキドキと鳴る。私は六の肩にそっと手をかけた。

「・・・俺を置いて・・・寝るつもりか・・・?」

「・・・っ・・・。」

「お前を・・・もう一人にさせねぇ。」

「!・・・あっ・・・。」

優しく、クイッと顎を持ち上げられる。・・・六が何をしたいのか・・・私にはすでに分かっていた。
目を閉じ、ゆっくり、ゆっくりと・・・唇が近づけられる・・・・・・


「・・・好きだ。・・・」

「六っ・・・・・・んっ・・・ぅっ・・・・・・。」


・・・今まで交わしたキスの中で・・・熱く・・・そして長いキスだった。・・・最高に・・・嬉しかった。
互いにぎゅっと抱きしめ合い、熱いくちづけを長く、長く交わし合う。そして私はそのまま、ゆっくりと布団の上に押し倒された━━━━

















「・・・っ・・・だめ、六・・・ちゃんと・・・自分の所で、寝なくちゃ・・・・・・。」

「言っただろ。お前を、を・・・二度と一人にさせねぇって」



豆電球のオレンジ色の光が仄かに照らす。私の上に恋人・・・六が覆いかぶさってくれる。
私の髪を優しく、丁寧に整ってくれる。今日の六が・・・なんだかいつもよりとてもかっこよく見える。

「・・・六・・・・・・わたし・・・・・・すごく幸せ・・・・・・。」

優しく、にっこり微笑んで私を見つめてくれる六。私は嬉しくて・・・彼の頬にそっと触れる。

「貴方と・・・・・・もっと・・・こうしていたい・・・・・・。」

「今日だけじゃねぇだろ」

「え・・・・・・?」

「これからも・・・この先も・・・もっと、もっと一緒にいられるだろ・・・。」

「・・・うん・・・約束よ・・・・・・六・・・・・・。」

「・・・俺とお前は・・・・・・永遠に、一緒だ」

「うれ、しい・・・・・・ん・・・・・・んんっ・・・・・・ふっ・・・・・」

再び唇を奪い合う。片手でお互いを強く抱き、もう片手で指と指を絡め合いながら・・・。まさに幸せの時間だった。
六・・・貴方をもっと感じていたい・・・。舌を入れ合う。私の吐息と、六の吐息が混ざり合う。

「・・・っ・・・・・・はぁっ・・・・・・・んぅっ・・・・・・ろ・・・くっ・・・・・・。」

「・・・・・・っ・・・。」

六によって着物がゆっくりとずらされ、私の肌が剥き出しにされる。恥ずかしいなんて言っていられない。
六からされること何でもが・・・・・・嬉しかった。胸元の傷痣を癒すように深い、深い口づけをしてくれた。

「・・・っ・・・あっっ・・・・・・んっっ・・・・・・六っっっ・・・・・・・・。」

・・・お前と、したい・・・。」

「・・・っ・・・だめよっっ・・・恥ずかしいから・・・////」

「なんでだよ。・・・いつ、やらせてくれんだよ」

「・・・・・・また、今度」

「じゃぁ今」

「だめっ・・・。////」

「・・・ケチ。」

それだけ笑って呟くと、甘えるように私の首に顔を埋めた。そんな彼がますます愛おしくなり、
頭をそっと抱きしめてあげた。

「・・・六。さっきは嫌いなんて言って・・・・・・ごめんね・・・・・・。」

「・・・いいんだよ。俺のほうが・・・悪いんだから。」

「・・・好、き・・・・・・。」

「あぁ。・・・愛してる。・・・」

「・・・私もよ。・・・好き・・・大好きよっっ・・・。六・・・。」


最後に一言・・・「ありがとう」と呟いた。六は黙ってニッコリと笑いながら頷いてくれた。
そして私をいつまでも守ってくれるように手をぎゅっと握ってくれる六。私も手を握り返し、
このまま朝を迎えようと眠りに就いた。




━━━これまでも、これからも・・・・・・ずっと、守っていてね。


大好きな、大好きな、私だけのお侍様━━━━


-end-




★・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。。。。。。。。。。

「そこ代われ」「ラブラブしてんじゃねぇ」「どんだけ熱いねん」・・・湧きません。

もうあなたたち5人、勝手にイチャイチャしとけぃっっっ!!!!!
・・・ですね。
私は液晶の外からボ━━━━っと見てますからっっっ!!!!!!!!!!

はい、皆様の大好きな六さん小説ですよ!!今までの4人の中で滅茶滅茶★熱く書いてしまいましたyo!!!!!←何
あと、ラピストリアで祝☆六さん復活記念ということで♪ラピス絵の六さんに相変わらずドキってなってしまいますね(*´Д`)ハァハァ
・・・そこまで熱熱に書くつもりは全く無かったんですけどねぇ〜〜〜〜〜〜。。。ちなみに嫁キャラ5人の第2話も書く予定です・・・(*´∀`*)

どうかKONAMIさん、あの絵柄でも構いませんから早くっ、稼働してくださぁ いっっっ!!!!!!!絶対やりに行きますから!!!

・・・くっ、ロミ夫さんわざと最後に回したほうがよかったかっっっ・・・・・・・・・・・・?????;;;
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