この世で最も恐れられている種族・魔女。その彼女の特別な日を私は知っている。


12月21日。彼女が一人の魔女として誕生した日。誇り高き一族が年に一度集まり、
生誕を祝って盛大な宴が行われる日。その彼女とは私の唯一の幼馴染であり、
そして…恋に落ちた女性でもある。城中の仲間達に口を滑らしてしまったら
騎士の人間が魔女に惚れるなんて、と一笑されるし、最悪魔女の一味だということで
共に火あぶりにされてしまうなんて事態は目に見えているので一切話さない。
これは私と彼女しか知らない二人だけの秘密なのだから。


満月がぼんやりと浮かぶ深夜。私は城をこっそりと抜け出し、白馬にまたがり
広い草原を駈けて、とある森を目指す。












何度かこの森に足を運んだことがある。いつもなら彼女が入り口付近で必ず出迎えて二人だけで散歩していた。
珍しく不在の為、私一人が森の奥深くに入るのは初めてであった。
道端で得体の知れない、懐かしい生き物や見たこともない新種の生き物たちが何者かと
私を不審げに見上げる。草木を踏む度に、昔の記憶が蘇る。
この森で無垢な彼女と遊んでいた、あの頃の記憶が。


幼少時、暗くて広いこの森に偶然迷い込んでしまい、歌声に誘われて鉢合わせになったのが
私とまだ幼い魔女が出会ったきっかけ。初めて見る人間なので最初は毛嫌いされた。しかし、
『僕はこの森や君たちに何も悪いことはしない』と説得したおかげでいつの間にか馴染んでしまい、
そして内密に、という約束で城を抜け出し、二人であちらこちら森の中の探検をしたものだ、と
懐かしさがこみ上げる。少女へと成長したあの頃も。そして美しく、立派な女性となった
今でも、変わらずに。


不気味なのは相変わらずだが、だいぶ変わってしまったなと全体を見渡してみた。
二人でよく座り込んでいたあの道端が面影なく綺麗に消えてしまい、残念と思う箇所もあれば
二人で木の実を摘んで食べていた古い大木がそびえ立っていて、「ちゃんと残してくれたんだな」と
嬉しく思う箇所も何度か見た。同じように彼女も一人で何処かで懐かしさに浸っているのだろうか。


など考えていたら屈強な二人の異人が私の目の前に立ちはだかった。手には大きな槍。
誰にも入らせまい、魔女には会わせまい、と恐ろしくギラギラした眼が私を睨み据える。


「待て。その人間は森を荒らしに来た者では無い。」


二人の異人の間に現れたその影と聞き慣れた声に安心した。その人が宥めるように
優しくよしよしと頭を撫でてやると、犬のように大人しく従った。さすが魔女。森全体を支配していることもあって、
これには尊敬してしまう。
「ロキ様。」 ――― 名を呟くと、鋭い目つきのまま私に振り向くと柔らかい笑みを見せてくれた。
白いドレスを上品に持ち上げ、ぴったりと傍に歩み寄ってくる。


「相変わらず来るのが遅いじゃないか、 。」

「申し訳ありません。…城中の者に知られて大事に至っては大変ですので」

「フフ。目的を聞かなくても既に分かっている。私の誕生を祝いに来てくれたのだろう?」

「勿論。今宵は誠におめでとうございます。ロキ様。」

「…フフ、よく来てくれた。待っていたぞ よ。」


そして嬉しげに私の腕を取ると、周りに集まって来ている森の生物たちに向かって高らかに声を上げた。


「皆の者よ、こいつは私の昔からの知人で決して怪しい人間では無い。なので我々の仲間だと思って
快く迎え入れると良い。今夜は思う存分、とことん楽しむといいぞ。」


森の生物たちから歓声が湧き上がる。とにかくロキ様が紹介してくれたおかげで何も被害に遭わずに済んだ、
と安心した。最初は不気味だと思っていたのだがよく見ればなかなか可愛い目をしている生物たち。
ロキ様の昔とは違った素晴らしい歌や踊りの披露に目を奪われ、料理を食べることも忘れる程だった。
森の住民一同が魔女の誕生を祝する盛大な宴。一人の人間が混ざっているなんて少し場違いを覚えながらも
精一杯楽しむことが出来た。
















「覚えているか?この場所を」



ロキ様と私しかいない二人っきりの空間。手を取られ連れられた場所は、幼少時よくよく訪れて
いつ頃か来なくなった森のさらに奥深く。ベッド替わりとして体を預けていた巨大なキノコ達が
ぐんぐんと成長していた。あぁ、よく覚えている。とても懐かしい。記憶がじわじわと、鮮明に蘇ってきた。


「私もお前が来るまでは遠い昔の頃を思い返していたのだ。」


言いながらロキ様はきのこの大きな傘にぴょんっと飛び乗る。私の隣に来ないかと勧められたが
爽やかに、丁重にお断りした。昔は当たり前のようにロキ様の隣によく来ていたが、今となっては気恥ずかしい。
ロキ様が腰掛け、私は立ったまま、夜空を見上げる。満天の星空だった。


「ここから見る星一つ一つが光を放っていて最高に綺麗ですね」

「まるで私みたいだ、とは言わないのか?」

「…っ…そ、それを言うほど私はそんなキザな男ではございません」

「ハハハ、お前はからかうとなかなか面白いな」


そう、ロキ様も魔女であってそして一人の女性である。こんな乙女心な考えを持つロキ様も悪くなく、
私が最も惹かれた長所だ。


「なぁ、 。」

「はい?」

「お前はいつまで私に敬語を使うのだ?」


明らかに眉をしかめて嫌がっている、という顔ではなく、多少困っているようなそんな表情で見つめてくる。


「別に不満だからではない。昔からの馴染みなのに何故未だにそんな堅苦しい言葉遣いなのか不思議でな。
それとも私が魔女だからといってわざわざ気を遣っているつもりなのか?」

「家系が騎士ですから。」
                         

こほん、と咳払いを一つすると、その姿がおかしかったのかくつくつと笑われた。


「身も心も疲れてしまうだろ?昔のように呼び捨てで呼んでも構わないのだぞ。よく私にべったりくっついて
『ロキ、ロキ』と呼んでいたくせに」

「あっ、あれは、まだ騎士としての自覚が無かった幼い身分でしたから。」

「…フフフ、あの時ここで私にキスをしようとするぐらい無邪気だったくせに、よく言うな。」
 
「めっ……滅相もございませんっ、一体っ、何処の無礼者がロキ様にそんな失礼極まりない行為をっ…!」

「ハハハ、貴様はたとえ覚えていなくても私は嫌でも覚えているぞ。」


何処の無礼者、とは私しか居なかった。昔のまだ幼かった頃の私は一体何を考えていたのか当時は知る由もなかったが、
今にしてみればちょっとした恋心が生まれていたからだろうか。忘れたフリをしてもロキ様にはお見通しだった。
かと言って怒りはせず、恥ずかしいあの当時を懐かしむように楽しげに笑っていた。


「……………じゃ、……じゃあ………………ロキ」

「何だ? 。」

「……様。」


まともに顔を直視しながら当時みたいに呼ぶことは出来ず、そこまで言い終わった途端盛大に笑われた。
「何かおかしな事でも?」と少しだけ唇を尖らせて見せると「すまん、すまん」と笑いながら謝られる。


「今のお前にはやっぱり似合わんな。もういい。好きに呼べ。…その代わり、私を満足させてみろ。」


怪しげな笑みを浮かべた後、いきなりドレスをたくし上げるとすらりとした片脚を私の前に突き出してきた。
ピンと立たせた爪先。白く、細く、とても美しい。


「キスしたければしても構わんぞ。」

「ロキ様…?」

「遠慮はいらん。今宵は私という魔女がこの世に初めて存在した日。
なので我侭も だけに沢山応えてもらう。
私をとことん喜ばせてみよ。」



催促するように5本の足指が私を誘うように滑らかに動く。幼い頃に決して無かった本能が生まれ、そして揺らぐ。

一人の人間と、一人の魔女との出会い。そして禁断の恋。

この恋が、いつか許されるのであれば

愛する貴女を守る為の騎士になりたい。



「今までも、これからも、ずっとお慕いしております。ロキ様。」



優しく手に取り、その美しい脚にそっと接吻を贈った。



-end-






★ロキさまこの度は誠におめでとうございます(←!?”)
もうロキさんもmikko.の大好き女性キャラ上位にランクインしていますからねっっっ、あぁっ、怖かっこいい女の人
もっと増やしてほしいものですっっっ。。。(T▽T)

某夢の国から帰還し、未だ夢から覚めないmikko.です(死)

※15.2.5追記/ロキ様ラピストリア復活おめでとうございますっ!!!!あんなにお美しいロキ様になってしまって、
mikko.も嬉しいです(T▽T)


14.12.9