━━━━小鳥のさえずりと共に響き渡る、俺を呼ぶ声。




廊下をパタパタと走る音。




寝ている俺の上に無邪気に乗り




今朝も元気な顔を見せてくれる。




フリスビーを、咥えながら。




「ごしゅじーんっ!今日も遊びに行こーっ!」━━━━






「ポチコとご主人の幸せな日常」






雨が本降りになりだした。よかった、傘を持ってきて。




梅雨入りのせいか、最近雨の日が多い。授業が終わり、せっかくの友人の誘いを断って
俺は大学の教室を出た。外はどんよりと曇り、雨が勢いよくパラパラと降っている。
手持ちの傘を開き、水たまりになっている場所を踏みつけ、校門を抜ける。
近くのコンビニで適当な夜食を買って、帰路へと目指した。

バス停に着く。バスから降りる。もちろん雨は止みそうにない。

夕方なのにまるで夜のように暗くなりかけている。再び傘を開け、自宅へと続く道を見つめる。
完全に暗くなるまでに早く家へと帰ろう。━━━━その時、ふとバス停に設置されているベンチを見た。



「・・・・・・犬・・・・・・?」



ベンチの上で横たわっている一匹の小さな犬。一瞬まさか・・・と思ったのだが規則的に息をしている。
・・・良かった。寝ているだけか・・・。そう思った時、安堵の溜め息が漏れた。けど・・・なんでこんな
人気のないところに・・・?


「飼い主を待っているのか?でも首輪はつけてないから・・・野良犬か?それとも・・・・・・・・・捨てられた・・・?」


すやすやと眠っているその小さな犬を、しばらくじっと見つめる。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」






上着をその犬に静かにそっと被せ、なるべく起こさないように静かに抱き上げる。起きる気配は全くなく、
ぐったりとしている。よっぽど疲れていたのだろう・・・。もしこのまま放っておいたら、雨の夜になってしまって
この犬も帰れなくなるだろう。それに冷えるから凍死してしまったら大変だ。
両手を塞がれてしまっているので腕に夜食の入った袋。なんとか傘を支えながらの重労働となったが、構わない。
水たまりで足を濡らさないように、抱き抱えている犬を落とさないように、ゆっくり、ゆっくりと
家へと歩を進めた。━━━━

























その真夜中。



━━━━ドタドタドタ・・・・・・・・・



「・・・っ・・・・・・う、うん・・・・・・??」

深夜なのにも関わらず、廊下の方が何やら騒がしい・・・・・・。近所の子供か。全く何時回っていようが元気だなぁ。。。
・・・・・・・・・子供・・・・・・!?いやいや、俺の家は一人しか住んでいないぞ・・・・・・だとすれば幽霊っ・・・・・・!?
でも普通こんなうるさい音を立てるか・・・?寝ながらそんなこんな考えていたその時・・・・・・



「ごっしゅじーーーーーーんっっっ!!!!」



━━━━Σぎゅむぅっっ!!!


「Σぐおおぉっっっっ!!!??」

突然何者かにのしかかり攻撃を喰らわれ、自分でも情けないほどの奇声を上げる。もう少しで体中の骨が
折れてしまう寸前だった。一体誰の仕業かと布団の上を見上げた瞬間、「!?”」と驚いた。
結わえた長い髪。耳がひょっこり生えている、無邪気な一人の子供。それも女の子。
俺の上にちょこんと座り、丸い瞳でこちらをじーっと覗き込んでいた。

「ごしゅじんっ!今日も遊びに行こ行こーっ!!」


「(・・・っ・・・だ・・・誰だっ・・・!?;;;)」

俺は何も答えずにただただその子を見るばかりだった。一体どこの家の娘さんなんだ!?近所でこんな子
見なかったし・・・・・・いや、そもそもどこから侵入してきたんだ・・・!?鍵は全部かけたはず・・・・・・。
するとその子はいきなりズイっと顔を近づけ、一人で納得したように頷いた。

「・・・・・・。うんっ!前のごしゅじんと全然ちがうっ!」

「そ、そりゃそうだっ、今日初めて拾ったばかり━━━━・・・・・・えっ・・・?」

・・・ちょ、ちょっと待て、状況が把握できないっ・・・・・・。

「え・・・・・・えっとぉ・・・・・・・・・。じゃぁ俺が雨の中拾ったあの犬は一体っ・・・・・・・・・・・・
・・・ま、まさかっ、同一っっっ!!?」

「そうっ!このポチコを拾ってくれたのですねっ!ありがとうございます〜☆」

・・・お、驚いたっっ・・・人間に変身できる能力を持っていたとは・・・;;それにポチコという名前なのか。
俺に向かって目を細め、にこーっと笑いかけてきた。・・・って、そんな事より「前のごしゅじん」って・・・!
俺はハッとなり聞いてみた。

「い、今前のご主人って言ったよな!?まさかその人とはぐれてしまったのか!?だったらすぐに
帰らないと心配しているんじゃ」

「ねーねーごしゅじん、ポチコと遊んでくださーいっ☆」

「ダメだ、夜だから近所迷惑になるし、睡眠妨害になるだろ・・・・・・って、Σ話し聞けよっっ!!!」

「ねぇねぇ、ごしゅじーんっっ!」

・・・・・・・・・・・・。全然ダメだ。日本語が全く通じていない。ポチコは甘えてまとわりつくように俺の衣服を
グイグイ引っ張っている。遊んで欲しいと訴えている視線をいっこも外さない。・・・困った。こんな展開になるとは
思わなかったけど・・・。;;ポチコに見つめられる中、俺は頭を掻いてしばらく悩み果ててしまった。

・・・・・・仕方が無い。
この子の飼い主が見つかるまで、俺が責任取って面倒を見てやろう。それまでの、辛抱だ。

「・・・じゃぁ、前のご主人が見つかるまで一緒に遊んでやる。その代わり、ちゃんと言うことは聞くんだぞ?」

「わぁーいっ!ポチコ嬉しいですっ!早く遊びましょーっ☆」

「だから今日はダメだって。。。」

「・・・うー、遊んでくれないのですかー??つまんなーい。。」

むーっと頬を膨らますポチコ。明日から元気すぎて逆に困るこの子によって、今まで静かだった家中が騒々しいことになってしまうのは
すでに目に見えていた。偶然拾った犬人間(?)、ポチコとのしばらくの同居生活は、この日から始まった━━━━

























━━━━朝。梅雨に入ってからの久しぶりの晴天となった。

「・・・っ・・・全く朝っぱらから騒がしいぞポチコ、たまの日曜ぐらいゆっくり朝寝させr・・・」


・・・・・・凄惨な光景を見て目を見開き、息を飲んだ。昨日まで綺麗だったリビングルームがまるで地獄絵図のように
変貌していた。数秒間、俺はその場で凍りつく。荒らしている張本人は勿論、そこにいた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。。。。。」

「わぁーい、 ごしゅじんの家、めずらしいものばっかりで面白いです〜♪」

「Σこらあぁーーーーーっ、ポチコぉーーーーーーっっっっ!!!!!」

目をキラキラさせながらも尚、物を次々と見ては出していくその手を慌てて阻止した。・・・今日が日曜日だから
良かったものの、もし平日で一日家を抜けていたらっ・・・・・・これ以上は考えたくない。・・・
この後ここを再び掃除せねばならないのかと思うと吐き気がする。泣きたいぐらいだった。
・・・こっちの身にもなって欲しいものだ。

「ひどいっ、せっかく苦労して掃除したばっかりなのにっ!!!ポチコっ、後で片付け手伝ってもらうからな・・・
・・・って、聞いてないしな。。。」

「わー、なにこれ?・・・うーむずかしい字ばっかりでよく読めませーん。。。」

「こらっ、それはあんまりいじるなよっ、大事な資料なんだからっ!!」

・・・どうやらポチコが見飽きるまで荒々しい探索は終わりそうにない。。。俺はやれやれと溜息をこぼしながら
ポチコの相手をすることになった。

「!わぁー、ねぇごしゅじん、これはなんておもちゃですかー??」

「し、知らないのかっ?;;これはハンマーと言って、ほら、大工の人が作業とかでよく使っているやつだ、
見たことないか?」

「・・・んー、遊べるものですか?」

「いや、残念ながら遊び道具じゃないな。ちなみにもし使い方を誤ったら凶器になるし、犯罪にもなるかr・・・」

「ねぇーごしゅじんっ、これはこれはー??」

「Σ早っっ!!つか、聞く気ないだろっ!」

「おもちゃじゃない」と聞いたとたんに素早くポイッと投げ捨て、次の物の名前をせがむ。・・・説明をさせられるの
連続で俺はとうとう疲れてきた。それに次々と荒らされてはたまったものではないので
仕方なく、ポチコの荒らした形跡を整理整頓することになった。・・・その時、ポチコがいきなり声を上げる。

「Σきゃぁーーーーーポチコとおんなじ犬だぁーーーーーかわいいぃーーーーー!!!♥」

「え、えぇ??」

何を見て興奮してんのかと近寄って見てみると━━━━戸棚の奥深くにしまいこんでいた一冊のアルバム。
開かれたページには友人が撮ってくれた写真たち。その写真には俺の姿と、そして一匹の犬の姿が
多く撮られていた。ポチコはその犬を見て感嘆の声を上げていたのだ。

「・・・・っ・・・・・・・。」

「ねぇねぇ、この子、ごしゅじんの犬なんですかー??」

ポチコが目を輝かせて聞いてくる。俺は曖昧に返事をするしかなかった。

「・・・ま、まぁ・・・な・・・」

「わーいポチコ、この犬とお友達になりたいですっ!どこにいるんですかー??会いたいですっ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・。・・・ジョンは・・・・・・・・・・・・・・・。」

「ごしゅじん?」

「いや、何でもないっ・・・。」

「Σあっっ!!フリスビーだぁ!!」

ポチコがさらに目を輝かせて次に取り出したのは、アルバムと一緒に封印されていた、フリスビーだった。
昔よくよく使っていたため、ずいぶんボロボロになっていた。・・・今は訳あって使われていない。
意外と知っているポチコに少し驚いてしまった。

「それだけはよく知ってたな;;」

「うんっ!前のごしゅじんとよくこれで遊んでいたんですっ!ねぇねぇねぇ、早くお外へ遊びに行きましょー!!」

・・・しばらく躊躇ってしまった。しかしポチコはフリスビーを持って催促するように俺の手を引っ張る。
ポチコの屈託なく、無邪気な笑顔。断ったら何となく可哀想なそんな気がした。・・・・・・・・・・・・・・。

久しぶりのいい天気だし、外へ出て気分転換するのも悪くないのかもしれないな・・・。

「・・・よし、じゃぁ、ポチコと遊びに出かけるかっ。」

「わぁーいっ!!☆」

「と、その前にここを全部片付けてからでないと、遊べないぞ。。。」

「・・・・・・カタヅケ???んーポチコ、犬だからよく分かりませーん。。。」

・・・・・・・・・・・・。。。呆れて言葉も出なかった。じゃぁ今までポチコが散らかしてきたものは全部
ご主人様任せだったわけなのか。どんだけ甘やかしてきたんだ前のご主人はっっ・・・・・・・・・。
これは俺がきちんとしつけなくてはいかんな。よし、前のご主人が驚いて見違えてしまうほど、
忠実で、理性を持った、そして賢いポチコになってもらおうっ。妙な闘争心が生まれた。

「いいかポチコ。出した物をきちんと元の位置に戻す、これが片付けと言うんだ。」

分かりやすいようにまずは手本を見せた。ポチコは黙って俺の行為を見つめる。

「分かったか?よしっ、じゃぁさっき俺がやった通りに、真似してみるんだ。」

ポチコにさせようともう一度元の通りにわざと散らかせる。・・・・・・・・・この行為がいけなかったっ。

「なるほどっ、分かりましたっっ!!Σとうっっっ!!!」

━━━━Σグッシャーーーーーン。ポチコの足蹴りで戸棚がいい音を立てて倒れた。中の物が虚しく散乱していく・・・・・・


「・・・・・・・・・・・・・・。。。全然ダメだな、お前は。。。。。」

「お褒めにあずかり、光栄でありますっっ!!★」

「Σ褒めてねーよ!!!;;;」━━━━




























━━━━今までの雨の日が嘘だったかのような、雲一つない青く澄み渡る大空。見渡す限りの
緑の絨毯。心地よい風。まさにピクニックにはもってこいの、最高の天気。ポチコと二人。
長いあいだ使われなかったフリスビーを、再び青空へと飛ばした。

「そーら、ポチコっ、取ってこいっ!」

「はいっ、ごしゅじんっっ!!」

勢いよく投げたフリスビーを走って追うポチコ。他人から見れば同じ人間の、しかも子供に
犬のような真似をさせるなんて、と誰もが思うようななんとも異様な光景だろう。
けどポチコはれっきとした犬(人間)だ。ジョンと、全く同じの・・・・・・。
フリスビーを見事、口でキャッチしたポチコ。咥えたまま俺のもとへと駆け寄ってきた。さすがの俺は
唖然となってしまった。

「す、すごいなポチコ・・・;;」

「ごしゅじんっ、もーっと高く飛ばしてくださーいっ☆」

「よーし、俺の投げ技に耐えれるかっ?そら、取ってこいっ!」

「わーいっ☆」

全く疲れの表情を見せずに、それどころか楽しんでいるようなポチコを見て自然と笑いが溢れる。


・・・懐かしい。こうしてまたフリスビーを投げられる時が来たなんて自分でも思いもしなかった。
そして・・・こんなに明るい気持ちになれたのは、何ヶ月ぶりなんだろう・・・・・・。


俺がどんなに投げ方を変えても、できる限り遠くへ飛ばしても、ミス一つ無しでフリスビーを捕らえるポチコ。
・・・くぅ・・・さすが犬。これには、参る。投げる腕が限界に近づき、そろそろ痛みが増してきたっ。

「じゃぁ今度はポチコが投げる番ですよっ!それっ、取ってこーい☆」

「よーし任せr・・・って、Σちょっと待てっっ!!立場が逆だろっっ!!;;」

「ごしゅじん早く取りに行かないと見失いますよー?早く早くっ!」

「こらぁーどっちがご主人なんだよっっ!!!;;;」

「きゃはははっ♪」━━━━





休憩時。緑の草原の上で広げる弁当。 

「わぁー、ごしゅじんの作ったおむすびですかー??」

「あぁ。お前が片付けを頑張っている間、こっそり作っておいたんだ。何も具入ってなくて握っただけだけどな」

「わーい、おなかペコペコだったんです!おいしそー♥」

「こらこらちゃんといただきますと言ってからだろ・・・って、早;;」

「(もぐもぐ。。)うわー、おむすびとてもおいしいですー!」

「そっか、そりゃ良かった。」

「・・・あーずるいですよぉー、ごしゅじんの、食べ物たくさんあるーっ!」

「だめだ、これは俺だけのおかずだ。ポチコのはおむすび3個あるんだから我慢しな。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。・・・・・・Σスキありっっ!!!(ぱくっ)」

「な”っ、唐揚げっ・・・」

「ごしゅじん油断したですね〜☆からあげ最高においしいです〜!!」

「おっ・・・お前なぁ〜〜〜、こらっ、俺の食うものが無くなるだろっっ!!;;」

「やったぁー、大きいのゲット〜〜!!」


不思議だな・・・と思った。ポチコとこうして戯れたり、ふざけ合ったりすることがとても幼稚に見えるけど
嫌とは思わなかった。苦痛だとは思わなかった。どこか・・・とても温かく感じた。
太陽が照らしてくれているから、ではない。まるで忘れ去れられた温もりが俺のもとに再び帰ってきたような・・・
そんな、心の温かみだった。この世界が最高に楽しいと言わんばかりの、ポチコのとびっきりの笑顔。
まるで太陽のように、眩しく、輝いていた。━━━━
























━━━━風呂に浸かり、ホッと息を付いたと同時にふと「・・・・・・あれ?」と疑問に思ったことがあった。


そういえば・・・ポチコを拾ってから今日で何日目になるんだろう・・・・・・。


あの日以来からまともに日を数えた事が無い。ポチコと暮らし始めてからだいぶ経ったような気がする。
・・・いや、そんなに経ってないか・・・?すっかり忘れていたなぁ・・・と思ってから過去に遡ろうとした時。

「ごしゅじんごしゅじんーっ!!」

━━━━ガラっ!!

「!?”」と驚いて戸の方を見ると、タオルを一枚巻いたポチコがいきなり堂々と現れた。

「ごしゅじん、一緒に入らせてくださーいっ!」

「な”っっ・・・!!!////こ、こらポチコ!!俺が上がってから入れと言っただろっ!!」

「ごしゅじんとどーしても一緒に入りたいし、一人じゃつまんないから来ちゃいましたー!」

「だっっっ・・・ダメだダメだ!!もうすぐ上がるから待っとけって!!」

「あーごしゅじん、もしかして恥ずかしいんですかぁー??・・・あ。」

ポチコのタオルの巻き方が雑のせいか、ハラリと床に落ちた。

「Σやーん、あんまり見ないでーん////」

「いやいやいや普通胸と股を隠すべきだろ、目だけを隠す意味がわからんっっっ!!!;;;」

「・・・ごしゅじん、おむねがもっと大きかったらよかったのに、と思ってるでしょ???」

「Σばっっっっか、んな訳あるかっ!!!////ていうかそんな知識どこで学んできたんだよっっ!;;
ほら、入るなら早く入れよっ」

ポチコが「わーい☆」と喜びながら空いたスペースに思いっきり浸かる。二人分の湯が一気に
外へと溢れ出した。いつも一人で入っていた浴槽。ポチコが入るとより狭く感じた。



「・・・うー、きもちいいです〜。。」

猫のあの至福の顔に似た、何とも言えない幸せの表情である。頬がピンク色に染められていく。

「・・・・・・なぁポチコ、恥ずかしくないのか?」
 
「ぅん?恥ずかしいって?」

「いや、だから・・・。ポチコの世界で言えば、俺はオスだぞ」

「前のごしゅじんと、いつもいっしょにお風呂に入ってましたからー☆」

「いや、それはお前とその飼い主が同性だからだろ。。。」

湯気の上る中、気持ちよさそうに肩まで湯に浸かっているポチコを見て俺は考える。
・・・前の、ご主人。今頃その人もポチコのことを心配して必死に探し回っている頃だろう。
普通の迷い犬なら、前のご主人がそろそろ恋しくなる頃なのに・・・ポチコにはそんな感情が伝わらない。
・・・寂しく・・・ないんだろうか。俺はどうしても気になってしまい、聞いてみた。

「・・・ポチコ。」

「なんですか、ごしゅじん??」

幸せそうに目をつぶっていたその瞳をぱちくりと開いて俺を見るポチコ。

「・・・ポチコは、どうしてそのご主人とはぐれてしまったんだ?いや、はぐれたんじゃなく・・・
自分から家出したのか?それとも・・・・・・捨てられて・・・・・・・・・?」

それに最初の日のポチコの言った「前のご主人と全然違う」。確認したようなあの言葉・・・。
やはり・・・ポチコなりの何らかの事情があったんだろうか・・・?


━━━━・・・こんな事、聞きたくなかった。前の主人の話も触れたくなかった。けど・・・いつかは・・・。

・・・本当は俺は・・・・・・・・・ポチコと・・・・・・・・・一緒に・・・・・・・・・。━━━━


ポチコは俺の言ってる言葉の意味が分かっているのか分かっていないのか、「??」と首をかしげている。

「んー、ポチコ犬だから、むずかしいことはよく分かりませーん。。。」

Σ何だよそれっ・・・;;しかも難しい内容かっっ・・・!?

「ねぇーそれよりごしゅじんの食べてた食べ物、すごくおいしそうに見えたですー!ポチコも食べたいです〜」

「あぁ、カレーか??あれは人間用の食物だからお前にとっては毒、だぞ。ドッグフードで我慢しな」

「・・・・・・・・・むうぅぅぅ〜〜〜ポチコこう見えても人間ですよ〜しかもドッグフードなんておいしくない〜。」

「じゃあポチコが、まだたんまり残っている部屋の片付けを頑張ってくれたら、作ってやろうかな」

「本当ですかっっ!?わーい、ポチコ、がんばるー!!」

俺は「期待しているからな」と微笑んでそっと手を伸ばすと、初めてポチコの頭を撫でてやった。
さっきの時よりもより一層幸せな笑顔。頭を撫でられるのが好きらしい。よっぽど嬉しくて堪らなかったのか、
突然「えいっっ!!」と言って俺に飛び込んできたポチコ。

「Σこ、こらっっ、やめろポチコっっっ、くすぐったっっ・・・!!」

「ひゃぁーごしゅじんの体、ゴツゴツしてかたい〜〜☆」

「悪かったな柔らかくなくてっっ、、よしっ、倍返しだぁ!!」

「Σきゃーーーん、ごしゅじんいじわるですよぉ〜〜、きゃははははっ!」


水しぶきがばちゃばちゃと激しく跳ねる。俺も童心に帰ったように無邪気に笑いながら
体をくすぐり合う。ポチコも精一杯笑顔を見せてくれる。自分でも不思議なぐらい、そして友人たちにも不思議に思われたぐらい、
最近の俺は前よりよくよく笑うようになり、はっちゃけている、そんな風に思えた。

もしかして俺をこんな楽しい気にさせたのは・・・ポチコのおかげだからかな・・・。

ポチコとこうして二人でいる、長くて短いような時間。何よりも貴重で・・・最高の幸せだと思うようになった。
時を数えるのも・・・・・・前のご主人の事も・・・・・・・・忘れてしまうぐらい・・・・・・。

俺とポチコの笑い声が浴室内にいつまでも響いていた。━━━━






































━━━━ てく、てく、てく・・・・・・・・・



ごしゅじんどこかな〜。。。


今日の夜はカレーを作ってくれる約束なのに。本当はおるすばんしとけよって言われたけど
夕方になってもごしゅじんの帰りがおそいから家を出ちゃった。。どこでなにしてるんだろう。
ごしゅじん早く会いたいなぁ〜〜〜、きょろきょろ・・・・・・・・・・・・。。。。。


・・・Σあ!あれはごしゅじんっ!♥ごしゅじーん、会いたk・・・・・・・・・!?


ごしゅじんに群がっている、あのたくさんの人間たちはいったい何奴!?・・・むむむ、ポチコ感じる・・・
けんあくな空気がにおう、なにやらただ事じゃなさそうな感が・・・・・・・・・!!!!誰かがごしゅじんに
つかみかかっているッッ!!!あのままだとごしゅじん、なぐられてしまいそうっ・・・!!
・・・ハッ、これはもしや人間たちの間でしんこくなもんだい、とさわがれている、「イジメ」というやつ!!??
むむむむ、ゆるさないっっ!!愛するごしゅじんのために命をかけて守る、これがポチコの役目っっ!!
ごしゅじんに手を出す悪い人間たちはこのポチコがぜんぶぶっ飛ばすっっ!!
ひとり残さず、ぜんいん、生きて帰らせるものかぁっっっっ!!!!


今助けに行きますっ!!!ごしゅじんっっっっっ!!!!!!

















「ごしゅじんに手をふれるなあぁぁぁーーーーーーっっっっ!!!!!」


「!?ポ、ポチk・・・」

声のした方に振り返ってみた時には、すでに俺の鼻と目の先に誰かの靴裏が━━━━


━━━━Σドゲシっっっっ!!!!!!



・・・・・・・・・え・・・・・・・・・?俺・・・・・・蹴られた・・・・・・・・・・・・・・・???


体がスローモーションのように宙に浮き、そのまま俺はΣズシャァっと地に叩きつけられた。
そしてポチコはぐったりと気絶している俺の服を強引に引っ張ると・・・

「さぁ、早くにげましょうっっ、ごしゅじんっっ!!!」

ぽか━━━━んと見つめられる中、ポチコによってズリズリズリィーーーと荷物のように
虚しく引きずられていった━━━━























━━━━「・・・・・・なぁポチコ・・・やっつける対象を間違えてないか・・・?
なんで助けられるべきこの俺が、助けるべきお前に蹴られんといかんのだっっ!!??;;;」


今やポチコと俺、二人だけの遊び場所となっている広い草原になんとか避難された。さっきの奴らに
やられた傷・・・ではない、ポチコにやられた(そして引きずられた)生々しい傷跡を撫でながら
怒っているのか、それとも悲しんでいるのか自分でも分からない声を周りに響かせた。
傷が夕日の光に照らされて、じんじんと痛く感じる・・・

「今の一発蹴りは本気でやったろ、はたまた、わざとか?」

ポチコはブンブンと首を横に振って慌てて拒否した。

「Σとんでもないですよごしゅじん!!ポチコはごしゅじんをいじめていたあの悪い人間たちから
助けようとしただけですよっ!」

「じゃあ何故俺をっっ・・・・・・・・・ ・・・はぁ・・・=3お前まさか前の主人をいじめっ子達から助ける時も
今みたいに大怪我を余計に増やすような暴力的な助け方じゃないだろーな??」

これが王子様とお姫様のストーリーなら笑えないし、バッドエンドになるのがオチだぞ・・・。。。
いや、お姫様に怒り狂われて半殺しの目に合わされて、最悪デッドエンドだな。俺は少し睨んで見せた。

「前のごしゅじん、さっきみたいなイジメに合ってなかったから」

「へぇー、そうですか。平和的でいいよなぁ、そのご主人が羨ましいよ。。。」

腕組をしてわざと拗ねてみせる。・・・ちらりと横を見ると、俺を怒らせてしまったと思ったポチコが
しゅん・・・と沈んでしまった。

「・・・・・・・・・。ごしゅじん、もういっかいやり直させてください・・・。。。」

「Σいやいやいや;;俺がもう一度さっきの奴らんとこに戻って『今のシーンをもう一回お願いします』と
お願いしなければいけないのかっっ??悪いけどそれは勘弁してくれ;;;」

「・・・・・・・・・・・・あうぅ〜〜・・・・・・・・・・・・・・・。」

顔が見えないぐらい、さらに深く俯くポチコ。今まで立っていた犬耳も一緒に垂れてしまって
それが可愛さを増した。かなり反省しているもよう。そんなポチコをもっと見ていたかったのだが
ちょっと可哀相かな。。。と思えてきたので俺はにっこり笑って・・・

「けど、ありがとな。ポチコ。」

「・・・うぅ・・・??」

「・・・もしポチコが来てくれなかったら俺は今頃、あいつらに殴り飛ばされていたところだった。
おかげで・・・助かったよ。」

すると今まで沈んでいたポチコの目がすぐにぱっと明るくなり、いつものポチコに戻った。

「Σ本当ですかごしゅじんっ!?うわーい、ごしゅじんにそこまで言われるとポチコ、うれしいですぅ〜♪
えっへんっ!やっぱりこのポチコがいたからこそ、ですねっっ!」

「あぁ。仕事もよく手伝ってくれるし、本当賢くなったぞ。ほら、ご褒美だ」

笑いながらすっと手を伸ばし、ポチコの頭に手を置く。今までは1,2秒ほどの短い頭撫でだったので
今度はゆっくりと時間をかけて、優しく撫でてあげた。ポチコは俺の撫でる手を追うように甘えて擦り寄う。

「ごしゅじん・・・。」

「・・・・・・。」


気持ちよさそうに撫でられてとても幸せな顔を見せるポチコ。そんなポチコの表情がとても可愛く思えて・・・
そして、愛らしく思えて堪らなかった。本当なら・・・もっと、俺の傍に居て欲しい。この手で優しく、抱きしめてやりたい。
・・・前の主人がたとえ見つかっても・・・・・・帰らないで・・・居て欲しい・・・・・・。
俺はポチコの頭を優しく撫で回しながら幸せそうに目を閉じているポチコをしばらく見つめる。そして・・・
本音を呟いた。

「・・・ポチコ。」

「なぁに?ごしゅじん??」

「本当は・・・俺と」

 

━━━━「ポチコっ!?」



「・・・え・・・?」

ポチコを呼ぶ、別の誰かの声。誰なのかと振り向くとちゃんとした一匹の犬を連れた、見知らぬ女性が
俺達の前に現れた。その女性はポチコを見ていた。

「・・・っ・・・探したわよっ、ポチコ・・・!」

「!!!ごしゅじんっっ!!」

「!・・・・・・」

・・・まさか、この人が・・・ポチコの、前のご主人・・・!?その人は安心したように大きく溜息をつくと
足早にポチコに近づいてきた。

「ほんとにもう、どこ行ってたのポチコっ、急にいなくなるものだからっっ・・・!!
あぁ貴方がこの子を見つけてくださったのね!?ありがとうございますっ、ずっと心配して探してたんですっ・・・!」

「やっ・・・やだっ・・・いやだっ・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・。」

「今までずっと寂しかったでしょポチコっ、さぁ、みんなも心配してるから・・・帰りましょ!」

女性は必死に俺にしがみつくポチコの手を無理やり掴むと強引に引っ張った。

「いやだっ、ポチコ帰らないもんっっ、はなしてっっ!!」

「なに言ってるのポチコ!ほら、この人にちゃんとお礼言って、お家に帰るのよっ!」

「いやだいやだぁっっ!!!ポチコ帰りたくないもんっっ、ぜったい帰らないもんっっ!!!
ポチコ、ここに残るっっっ!!!」

「!!・・・ポチコっ・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「ポチコここがいいもんっ、今のごしゅじんの方がいいッッッ!!!!」

「だめよっ、言う事聞きなさいっっ、帰ると言ったら帰るのよっっ!!!本当にごめんなさいっ、
うちのポチコが迷惑ばっかりかけてっっ・・・」

「・・・・・・・・・い・・・いえ・・・・・・・・・別にっ・・・・・・・・・。」


迷・・・・・・惑・・・・・・・・・?


女性は俺に何度も謝りながらポチコの手を強く引っ張る。ポチコは首を激しく横に振りながら
狂ったように暴れ、必死に手を振りほどこうとする。・・・・・・その痛々しい光景を俺は黙って見つめるしかなかった。

「イヤだもんっっ、はなしてっっ、 ごしゅじんのそばがいいっっっっ!!!!」

「ポチコっっ、いい加減にしなさいっっっ!!!しまいには怒るわよっっ・・・!!!!」

「やだよぉっ、はなしてよぉっっ!!!やだやだやだやだぁっっ!!!!!助けてっっ、ごしゅじんっ・・・!!!!」

「・・・・・・・・・・・・・っ・・・・・・・・・・・・・。」

涙目で俺に必死に伸ばすポチコの小さな手。その手を・・・・・・本当は強く掴んで引き寄せたかった。けど・・・・・・
そんな行為、誰が許せようか。俺にはどうすることも・・・出来なかった。そして・・・
ポチコは声を枯らしながら辺りに木霊するほど、叫んだ。


「ポチコ、 ごしゅじんともっと一緒にいたいんだもんーーーーーーーっっっっ!!!!!!!」



━━━━ぽん。


俺はポチコに静かに近寄り、視線に合わせてしゃがみ、ポチコの頭にそっと手を添えた。

「・・・っ・・・ごしゅじんっ・・・!」

「・・・帰るんだ。ポチコ。」

「!!!!!・・・・・・ごっ・・・しゅ、じんっっ・・・・・・」

「この人の言うとおりだ。ちゃんとご主人様の言うことを聞いて・・・もといた場所に、帰るんだ。」

「・・・・・・・・・・・・っ・・・・・・・・・・・・・・っ・・・・・・。」

「・・・・・・・・よかったな、お前のご主人様が・・・見つかって。・・・今までほんとにありがとうポチコ。
・・・楽しかった」

「・・・・・・っ・・・・・・うっ・・・・・・ひくっっ・・・・・・・・・いやだっ・・・やだよぅっっ・・・・・・ごしゅじんっっ・・・・・・」

・・・お願いだからっ・・・・・・そんなに泣かないで欲しい。そんな悲しい目で俺を・・・見ないで欲しいっっ・・・。
・・・・・・こっちもっっ・・・・・・、泣きたくなってっっ・・・・・・しまうだろっっっ・・・・・・・・・・。

「・・・・・・・・・ポチコ。お前は賢いんだからっっ・・・・・・。・・・この人にちゃんと・・・可愛がって貰うんだっ・・・。」

「・・・・・・・・・・・・っ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


女性は俺に向かって一礼し、ポチコの手をゆっくりと引いていく。手を引かれ、大人しく従うポチコ。
どんどん遠くなっていく二人の背中を見送る。ポチコは俺の方に何度も、何度も振り返りながら去っていく。
・・・真っ赤になったその目で。大粒の涙をぽろぽろと零していく、その目で。俺を、何度も呼びながら・・・。


「・・・・・・・・・っ・・・・・・・・・ ごしゅじんっっっ・・・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・っ・・・・・・・・・。」


ポチコのその顔をなるべく見ないように視線を逸らす。見ると・・・辛いから。心が、痛くなるから。
・・・・・・そして顔を上げた時にはすでにポチコの姿は夕日の中に溶けるように、消えてしまっていた。


・・・泣くまいと思ったが無理だった。目から流れ落ちた涙がゆっくりと地に落ちていった━━━━







































━━━━「ごしゅじーん!おかえりなさーいっ!」━━━━






・・・・・・・・・・・・・・・。


俺が大学から帰ってくると嬉しそうに駆け寄り、毎日欠かさず迎えてくれたポチコの元気なその声。
無邪気な笑顔。ポチコの走る足音が今にも聞こえてきそうだった。けど・・・・・・
今は何も聞こえない、再び静まり返った無人の家。まるでポチコと今まで共に過ごした楽しい日々が
嘘だったとでも言いたいような・・・しんとした静寂、暗がり。一人でいる時は何とも思わなかった
この静けさ。心が痛いぐらい・・・ひどく淋しく思えた。


・・・完璧には片付かれていない、リビングルーム。最初の日と比べるとだいぶ綺麗になった方だった。
・・・・・・このまま残しておこう。ポチコと一緒に過ごし、一緒に遊んだ唯一の痕跡だから・・・。
そして明日も遊ぶと約束してあらかじめ出しておいた、フリスビー。そっと手に持ち、宝物のように大事に抱えた。

いつも俺の手を繋ぎ、あの場所で毎日日が暮れるまで楽しい時を過ごし、はしゃぎまわり、笑い合い・・・
不器用ながらも俺を一生懸命手助けし、守ってくれたポチコ。そして汚れもなく、太陽のように眩しく、
まるで天使のような笑顔で辛いこと、嫌なことを忘れさせ、俺の心を和ませ、癒してくれた大切な存在・・・ポチコ。



そんな幸せが・・・引き裂かれた。



・・・・・・今頃は・・・もとのご主人様のそばにいて・・・いっぱい可愛がってもらっているんだろうな・・・
変わらないあの笑顔で・・・無邪気に寄り添って・・・。
・・・俺に必死に助けを求め、涙を流し泣いていたポチコの姿。けどそんな悲しみも・・・ご主人様に
たっぷり愛情を注いでもらえれば・・・ ・・・すぐに忘れる。俺と今まで生活してきたことも無かったことにして・・・
・・・全部、忘れるだろう。その内、俺も・・・自然と忘れていってしまうんだろうか・・・・・・。

どんなに楽しかった過去を思い出しても・・・会いたいと願っても・・・・・・もう、ポチコには・・・
二度と会えないん だ・・・・・・・・。
そう思ったとき。


━━━━涙が、一気に溢れた。


「・・・・・・・・・っ・・・・・・・・・・・・っ・・・・・・・・・・・・ポチっっ・・・・・・・・コっっっ・・・・・・・・・。」


顔を押さえる手の指と指の間から次々と零れる。嗚咽が出る。涙がフリスビーに弾かれて、消えた。









━━━━ダン、ダン、ダン!!


「・・・!?」

その時、誰かの窓を叩く音にハッとなり、慌てて涙を隠し、窓の方に目をやると・・・

「ごしゅじんっ、開けてくださいっっ、ごしゅじんっ!!」

「・・・!!!ポ・・・ポチコっっ!!??」

驚き、窓際に走ると鍵を外す。

「ごしゅじんっ!!会いたかったですぅっっ!!!」

窓を開けたと同時に俺の胸にぎゅっと飛び込んできた。

「ポチコっ、どうして・・・!?」

するとポチコはびしっと敬礼をし、真面目な顔でこんな事を言った。

「前のごしゅじんと、ケンカしてきました!!」

「喧嘩ぁっっ!!??;;;」

しかもそんなポーズで言うことか・・・!?俺は思わず叫んでしまった。

「なっっ・・・ポチコ、なんてことをっっ・・・!!」

「いいんですっっっ!!!・・・・・・・・・前のごしゅじんと、あんまりいい思い出・・・無かったから・・・。」

「え・・・?」

ポチコは突然俯き、寂しげにぽつ、ぽつ、と語りだした。

「前のごしゅじんの時も・・・フリスビーで毎日よく一緒にあそんでくれたり・・・よくポチコの頭を
なでてくれたり・・・・・・それなりに幸せだったんです。・・・でもそんなの最初だけで・・・・・・
ほかの友達もたくさん飼うようになってきて・・・相手にしてくれなくなって・・・
ポチコ、何のためにごしゅじんのそばにいるのか、家にいるのか分からなくなってきたんですっっ・・・・・・。
そのうち、さみしくなってきて・・・もう嫌になってきて・・・
だからっ・・・・・・家を、飛び出したんですっっ・・・・・・。」

「・・・・・・・・・ポチコ・・・・・・。」

だから・・・・・・あのベンチの上にいたんだ・・・。そしてポチコは俯いていた顔を上げ、
俺を見つめながら目を細めてにっこり笑って、こう言った。

「・・・ポチコね・・・、ケンカして別れるとき、前のごしゅじんに言われたんです・・・
『本当の幸せを見つけてこい』・・・・・・って。

ポチコは・・・ ごしゅじんと一緒にいるほうが・・・すごくうれしいし、世界でいちばん幸せなんですっっ・・・」

「!・・・・・・・・・」

ポチコの小さな手が俺の手をそっと包み込んでくれる。すごく・・・温かく感じた。俺も本当は・・・・・・
それを言おうとしていたんだっっ・・・・・・。自分でも目が潤んでいるのが分かる。それでもポチコは
優しく、微笑んでくれた。

「・・・・・・・・・っ・・・・・・ポチコ・・・。・・・・・・・・・前に、アルバムの中の写真の犬、見たよな・・・」

「うんっ!ジョンくんでしたよねっ!ポチコ、早く会いたいですっ!」

「・・・できないよ」

「!・・・どうしてですか?」

「・・・・・・・・・・・・死んで、しまったから・・・。」

「!!!・・・そんなっっ・・・・・・。」

「・・・・・・ジョンとフリスビーで遊んで帰る途中で、俺がトラックに轢かれそうになった時・・・・・・
ジョンが、俺を守るために身代わりになってっっ・・・・・・・・・ ・・・・・・即死だった・・・」

「・・・・・・っ・・・・・・・・。」

「だから・・・・・・ジョンのことも・・・フリスビーのことも・・・触れたくなかったんだ・・・。
けど・・・・・・・・・・・・・・・本当は・・・・・・・・・ずっと・・・・・・寂しかったっっっ・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・。・・・ごしゅじん・・・・・・。

ごしゅじんは、一人なんかじゃないし、さびしくなんかないよ。ポチコが・・・いるじゃないですか・・・。」

「・・・っ・・・・・・。」

「ポチコ、 ごしゅじんとフリスビーでもっと遊びたいし、たくさん笑っていたい。手をつないでいたいし、
一緒に美味しいものたくさん食べたいし、一緒にお風呂入りたいし・・・一緒に寝ていたいし・・・
ごしゅじんと、もっと、もっと楽しい思い出をたくさん作りたい。そして・・・
ごしゅじんが危ない目にあった時、どんなことがあってもこの手でごしゅじんを・・・守ってみせますっ・・・!」

「・・・・・・ポチコっ・・・・・・。」

「ごしゅじんが年いっても・・・・・・おじいちゃんになっても・・・ポチコの気持ちは変わらないですっ、
だから・・・いつまでも、いつまでも、ずっと、ずっと・・・・・・


ず〜〜〜っと、一緒だよっっ!ごしゅじんっっ!!☆」

「!・・・・・・・・・」

・・・あぁその愛くるしい笑顔っ・・・・・・どれだけ、見たかったかっっ・・・・・・。その笑顔を見たとたん
俺は、最高に嬉しくなり・・・胸がいっぱいになり・・・涙が再び、溢れ出した。そして━━━━


「・・・・・・っ・・・・・・・・・帰って、来てくれてっ・・・・・・ありがとうっっ・・・おかえりっっ・・・ポチコっっっ・・・。」

「ごしゅじーんっっ!!!♥」


初めて抱きしめあった。ポチコは俺の首に両腕を回し、柔らかい頬を無邪気に擦り寄せてくれる。
俺はポチコの頭を優しく撫でながら、強く、強く抱きしめた。

「ごしゅじんごしゅじん〜♥」

「・・・っ・・・・・・ポチコっっ・・・・・・・・・。」

涙声になってしまったが、構わなかった。目を閉じたとき、涙がぽろりと頬を伝った。

 
━━━━・・・明日から・・・・・・フリスビー、いっぱい飛ばして・・・遊ぼうな・・・・・・。


俺はいつまでもいつまでも、ずっと・・・ ポチコを離さなかった。二度と離さないように長く、抱きしめた。━━━━
















━━━━「ポチコ。そろそろ起きろよ」

「・・・・・・う・・・・・・・ん・・・・・・・・・?」


気持ちよさそうにぐっすり眠っていた、腕の中のポチコはゆっくりと目を開ける。
俺はポチコを抱っこしながら草原の広いあの場所にたどり着く。そして・・・遠くに見える綺麗な
夜景を見せた。ポチコは興奮気味になって、目をぱぁっと輝かせた。

「わぁっっ・・・・・・こんなふうに見えてたんですねっ!」

「あぁ、綺麗だろ?ポチコに、ずっと見せたかったんだ」

「うれしいっ・・・。ごしゅじん色んなところ知ってるんですね・・・」

「まぁ、俺の知ってる限り、だけどな。ポチコの知らない所、もっともっと連れて行ってやるよ。
よし、明日は日曜日だし、お前の大好きな遊園地に行こうかっ!そして、遅い晩ご飯だけど・・・
ポチコが帰ってきてくれた記念として、今晩は特盛カレーだ!」

「わーーいっっ、やったあっっっ!!♪ポチコ、楽しみです〜♥」

俺が満面の笑みを見せると、笑い返してくれるポチコ。遊園地もそうだけど、ポチコのその元気な
笑顔を見るのが・・・俺にとっての最高の楽しみなんだ。明日からもっと見られると思うと・・・嬉しい。

「・・・・・・なんだかこうしていると、俺たち、家族・・・みたいだな。」

「ふふふっ、ポチコたち、出会った時からすでに家族じゃないですかっ」

「あぁ、そうだな。俺たちはこれからも・・・何年後もずっと、一緒だ。」

ごしゅじんっ・・・」

そっと寄り添うと、嬉しげに俺の頬をぺろぺろと舐めてくれた。とてもくすぐったい。

「こら、よせよポチコっ。」

「えへへ、ポチコ、すっごくうれしいんですっ♪」


夜景よりも眩しい、ポチコの最高の笑顔。その笑顔・・・・・・もっと、大事にしていたい。

そして・・・・・・・・・二人でもっともっと・・・・・・幸せな日々を、送ろうな・・・。

俺だけの・・・

「ねぇねぇ、ごしゅじん。」

「ん?なんだ?」


大切な、大切な、『宝物』。




━━━━「ごしゅじん、だーい好きっっ!♥」━━━━



-end-






★男性向け夢小説・トップがまさかの、ポチコ。(Σちゅ どーん)


ポチコはもうさらいたいぐらい(←ちょ、待てし)可愛すぎてたまりゃんので書きたいと思って真っ先に
書いてしまいました(*´∀`*)話し考えやすかったし、書きやすかったしね♪なのに10日以上かかるって・・・;;;
まぁ私のいつもの悪い癖ですよ(←

今まで甘々Lvのばかり書いてきましたからね、たまにはこんなほのぼのした話もいいでしょう!!★
ごしゅじん、あいらびゅーっっ!!ポチコみたいな可愛いペットが欲しいですヽ(*´∀`)ノ
・・・あーーーなんだか今までの小説のよりはるかに長く感じ るーーーーーーー(白目)

にしても私の書く小説はやたらに「・・・」とか多いですよね、キーボードが壊れんかったらいいけど。。。(死)

                                                               14. 6.29