バイトが予定よりかなり遅くなってしまい、家にようやく帰り着いたのは夜中の22時だった。
「夕方には必ず帰ってくるから」といつもの通り頭を撫でてやり、玄関を出てから
あれから数時間が経ってしまった。そう約束したはずなのに
こんな大事な日に限ってなんて運悪く事態が重なってしまうんだろうか。



今日はあの子の、ポチコの、大事な誕生日だというのに。










「ただいま。…もう、寝てしまったのか?」



…当然だった。家の中は暗闇に包まれて物音ひとつしない。ポチコの姿ももちろん無い。
暗くなっても帰ってこないので恐らく先に寝たのだろう。朝から夕方まで、ご主人を待ちながらも
一人で遊んでいた姿を想像すると、ポチコが不憫で不憫でならない。
可哀想なことをしてしまった、と後悔しながらも自分も寝ようとしたが…そんな気にはなれない。
ポチコのいつもの元気な顔を見なければ、一日が終わったという感じがしないからだ。
……一人で寝るのがいつしか不安になって起きてくるだろうか。そんな密かな期待を抱きながら
自室で深夜の番組を何となく眺めていると



━━━━がちゃ。ドアの開く音。パジャマ姿のポチコだった。
お気に入りの犬の大きなぬいぐるみを抱き抱えながら目を真っ赤にして泣きじゃくっている。



「……うっ、ひくっっ…。… 、ごしゅじんっ……。」

「…ポチコ?起きてたのか?」


ポチコのただならぬ様子。あぁ、きっとポチコの事だから怖い夢でも見たんだろうな。
と、微笑ましく思いながらも傍にゆっくりと近寄ってその頭を撫でてやった。


「…ごめんな、早く帰ってこれなくて。寂しかっただろ?」

「う、…ううん、この子がいたから、寂しくなんてなかったですよっ!…ポチコ、さっきまで
がんばって一人で寝たんですっ。……そしたら………こわい夢を…ひくっ、見、て…。」


やっぱりな。子供ってのは大人になった俺でも、見ていると心が和むものだ。


「どんな夢なんだ?まさか俺が某人気漫画みたい巨人に変貌して、逃げるお前を捕まえて
食ってた夢とか」

「うんっ、まさにそうなんですぅっっ」


…適当に言ってた事が当たるとは思わなかった。っていうかポチコが見る夢にしては
余りにもごつすぎじゃないか。それは確かに、大人の俺でもリアルに怖いし
目を覚まさずにはいられないだろう。。。強くこっくんと頷くポチコの目にはまだ涙がいっぱい溜まっていた。
いつの間にか俺の衣服に小さな手がしっかりと握られている。そんな微笑ましいポチコを見ていて
一日の疲れが嘘のように飛んだような気がした。


「けど成長したな、偉いぞ。一緒に寝ようか、ポチコ。」

「うんっ!」


そう言うとすぐに顔をぱっと輝かせ、俺の手を取りベッドにぴょんと移動した。腕の中で子猫のように
体を小さく丸めるポチコ。早くも11月になり、部屋の中でも寒く感じるような気温だが、
暖房をつける必要なんか無かった。ポチコが傍に寄り添ってくれて、充分暖かいから。


「…ねぇごしゅじん、明日もどこか出かけちゃうんですか?」

「いいや、明日は俺は休みだし、久しぶりに一日ずっと居れるぞ。その時にケーキを買って
一緒に食べような。」

「本当ですか!?うわぁーい、たのしみですー☆」



無邪気で、そして手放したくないほど愛らしく、明るい気持ちにさせてくれた大好きなポチコ。
そんな彼女の誕生日。日が変わらぬうちに、とそっと呟く。頭をそっと撫でながら。


「ポチコ。」

「なぁに?ごしゅじん。」

「誕生日、おめでとう。」

「…わん♪」


にっこりと笑いながら安らかな眠りに就くポチコを優しく抱きしめてあげた。



-end-





★短っっっ!!!(笑)

もう早くも11月・2014年も僅かですよ奥さん(死)これからも一日一日大事にして夢小説をupしていきたいと思います!
にしても絵はいつお描きになろうかしら。。。(死”)


14.11.1