自分の生まれた日は今日だ、と彼は呟くように言った。


ただ分かった事はそれだけ。


それ以外の件は彼が口を出さない限り、私は何も知らない。





あの時まではもちろん知らなかった。



彼の”本業”のことも―――――












その彼は「ただいま」の一言も言わずに溜息をつきながらドアを閉めると
すぐにソファーにだらりと寝転がった。やはり帰宅時間が思った通りの22時半。
せっかくの彼のお誕生日だから何か食事を用意しようかなと思っていたけど作らなくて正解だった。
今日は特に疲れたらしく、身じろぎ一つしない。そんな彼を見て、いつも疑問に思うことがあった。


街の中で偶然見た彼が、昨日までは清掃員だったのに今日は水道局員だったり、
何でも屋という事でベルちゃんの猫探しを頼まれたりと、彼の受け持つ仕事が人一倍非常に多い。
一人の人がいっぺんで多くの仕事が出来るのか、と心配も疑いもあった。けど向こうは特に何も言わない。
なのでこっちからしつこく問う必要ないだろう、と彼の為に敢えて何も聞かない。


横になっている彼の隣に腰掛け、その頭を撫でてあげる。


「…KK?」

「…あー、何だ、 。」

「…寝てる?」

「寝てる」

「…いつも帰り遅いよね。無理してない?」

「…悪ぃな、まともに相手できなくて。また元気がある時に一晩中抱いてやるからよ」


それが出来る日はいつ来るんだろうか、と呆れ笑いを一つ。上司もたまの一日ぐらい気を利かせて
KKを返して欲しいものだ。KKはそれっきり言うと寝息を立てて死んだように深く眠った。
そんな安眠を妨げないように彼の瞼にそっとキスをしてあげた。きっと聞いてないだろう、と分かりながらも
祝いのメッセージを囁いてあげた。


「お誕生日おめでとう。KK。」

















洗面所に立ち寄り、彼の仕事で使った服を洗ってあげることにした。洗濯機でやったほうが早いけど
手抜きだと思われたくないため、手作業でしっかり汚れを落とす。彼が清潔な服に身を包んで、
さっぱりとした気持ちで多忙な仕事へと出かけられるように。そう思うと清潔にしようとする手に
力が込もる。



ごしごしと洗うと水と一緒に排水口へと流れていく赤い液体。ペンキかな。と思ったその液体からは
妙に生臭く鉄のような匂いがし、鼻にツンと来た。


「……何、これっ……。」




―――――血、だ。それも、人間の。―――――




そう分かった、いや、分かってしまった瞬間、背中に冷たいものが流れた。
体の下からぞくぞくと凍えるほどの悪寒が走った。手を止めても服から流れ落ちる血は止まらない。


。…見たな」


その声にハッとなって素早く振り返った。寝ていたはずのKKが洗面所の扉に立ち、
無表情で私をじっと睨み据えていた。見たこともない、彼の、狂気に満ちたような鋭い目つきで。
私の体は恐怖で震え、足が自然と後ろに引き下がる。


「…っ…け、KK、なんで、」

「…俺の秘密を知ってしまった以上、お前さんを生かせるわけには行かねぇな。」


と言いながらいきなり近づくと物凄い力で私を捕らえ、そのまま羽交い締めにされた。


「ここで死んでもらうぜ」

「…っ…い、やぁっ、やめてっ、KKっ…」


きっと私も血に染まった塊となって、KKの衣服に同じように浴びるだろう。恋人だと信じていた彼に
―――殺される。すぐさまそう直感した。………だけど何もして来ない。よく見たら
手にはナイフの一本すら持っていない。


「…なーんて、な。」


既に目に涙を浮かべて呆然としている私を見て、さもおかしいと言いたいようにくつくつと笑い出した。
…まんまと騙されてしまった。「本気でやると思っていたのか?馬鹿め」と言いたげな彼。
ムッとした。睨んで見せると、また笑われる。


「…なんで、黙っていたの?」

「そりゃ、 が悲しむだろうと思ったから。だけどバレてしまったからには、
もう後には引けねぇな。」

「でもっ、」

「だからつって怯えんな。愛するお前さんを殺しゃしねぇよ」

「…本当に?」

「信じられねぇってのか?」


そして私を羽交い締めにした状態のまま唇を奪われた。怖いほどに優しく、長い長いキスを。




「守ってやるよ。 だけを愛する、殺し屋として。」




――――それは、彼が殺し屋だと初めて知る前の話。




-end-





★正直に言いましょうっっっ、KKさんはかっこいいっっ!!!!!(*≧∀≦*)だから彼の夢も
やたらと多いんですねっっっ。人気のわけも分かりますっっっ。(*´∀`*)

かつて短編でちらりと書いたキャラも、無論☆書くつもりですっっ!!いや〜、彼もいつかイラストとして
描いてみたいですわぁ〜。。。


14.11.18