見合い話の度に「またか」と気分が乗らない。こんな五月蝿い家を出て行きたいと思うのは何度目だろうか。
顔立ちや性格もそこそこ悪くない男性も多かったし、時には是非嫁に、と熱心に口説く男性もいた。
けど、特にこれといったタイプは未だに見つからない。いや、見つけようという気にはなれなかった。
どんな男性が相手だろうと、こちらから丁重にお断りして親を毎回落胆させることが多い。


既に私には好きな彼がいるから。









朝晩もすっかり冷え込み、太陽が昇るのも遅くなり、吐く息も白くなった11月。
人気俳優の身のためになかなか休暇を取れない彼が、私のためにわざわざ日を空けてくれたので
待たせてしまったら至極申し訳ない。急ぐようにいつもの待ち合わせ場所へ足早に向かった。
二人でデートを重ねている公園。天気の良い日は青空が広く澄み渡り、自然も豊かで草木独特の匂いが放たれる。
今日は特に絶好のお散歩日和。しかも彼の特別な日なので、これほどまでにお天気の神様に感謝した事は無かった。



どこかで待っているかな。と期待を膨らませながら辺りを探していたら、期待通り彼がいた。
遠くの風景を眺めている背中に後ろからそうっと近づき、


「マークっ!」


肩をちょんっと叩いただけで体を大きくびくっと強ばらせ、同時に耳と尻尾がぴんと真っ直ぐ立った。
ドラマなどでは絶対見せない、彼のあっけにとられたような姿。どこか滑稽に見えて、可愛かった。


「び、びっくりした、 か」

「ふふっ。ごめんね、だいぶ待った?」

「いや大丈夫。待つのはいつも慣れているからさ。君も色々都合があるだろうから急がなくてもいいよ。
気長にいつも待っているからさ。」


そう言って優しく微笑んでくれるマーク。彼といるとテレビやポスターでしか見れない笑顔を独り占めしているみたいで
いつも得をした気分になる。


「けど、せっかくの誕生日なのに休みを取って良かったの?ファンの人たち残念がるじゃない?」

「いいさ別に。ファンの人達から祝って貰えるのは確かに嬉しいけどさ。…やっぱり君自身に祝って欲しくて」

「ふふっ、誕生日おめでとう、マーク。」

「ありがとう。 。」


…ここで私の体をいきなりさらって抱擁とかキスをくれたら惚れてしまうのにな。と期待しておいて
いつも外れる。プライベートの時、ドラマで演じているようなかっこいい恋愛が難しいらしく、上手く出来ないのが
マークの少し残念なところ。けど逆にかっこよすぎる人は好みではないので、それはそれで悪くないかも、と思う。
世間からはかっこいい俳優、と見られるけど私的にはマークはどうしても可愛い方、と見てしまう。
だから手を繋ぐのはいつも私の方から。プライベート時のマークは私しか知らないのだ。











マークと一緒に乗るボートが好き。陽の光によってキラキラと光る綺麗な湖面の上をマークが漕いでくれる。
陽が十分に当たっているので日向ぼっこには最適。このゆったりとした時間が一番心を落ち着かせてくれて、大好きだ。
マークと楽しいお喋りをしている内にボートはあっという間に公園のある陸地から離れてしまっていた。
…こうすると、煩わしい現実から完全に遮断されて、二人っきりしかいない世界に閉じこもったみたいで、
なんだか嬉しい。実際にそうなったら。ここではないどこか遠くへ離れられたらどんなにいいだろう、と
決してあり得ない夢を思い描く。手を湖面に浸し、子供みたいに水を掻き分け楽しむ。そんな無邪気な私を
「危ないよ」と言いながらにこりと笑うマーク。この幸せな時間を、いつまでも大切にしたい。


。」

「ん?」

「君の見合いの相手は、もう決まったかい?」

「………。」


それまで楽しかった気分が消え失せ、私の表情を曇らせる。今までの会話や楽しい雰囲気が嘘のような、突然の静寂が襲う。
「なんでそんな事急に聞くの?」と、優しいマークの前では怒れなかった。


「縁談を受けているって聞いたからさ、ぴったりの相手を見つけたのかと思って」

「……………。」


湖の波がボートにぶつかる音や、漕ぐ音だけが聞こえる。マークが次の言葉を発するまでの沈黙の間が長く感じた。

何時の日か、両親に自分の気持ちを打ち明けたことがあった。しかし俳優と結婚するなんて、と激怒されそのまま話は却下。
たとえ周りから厳しく反対されようとも、私にはマーク以外の他の男性を好きになれなかった。…だって…私っ……。


がその人に合うお嫁さんになって、幸せになれることを祈っているよ。」

「!………」


マークの相変わらずの優しい笑顔が、見てて辛い。突然彼の方から別れ話を持ちかけられたみたいで泣きたく、なってきた。
必死に堪えるように、ぐっとスカートの裾を引っ張りながらもなんとか答えた。


「…全部、断っているの」

「!…なんで?」


ボートが急停止する。マークが漕ぐ手を止めたからだ。目を丸くして私を見つめている。


「…私には他の人を愛する資格なんて無いし…もしその人のもとに行ったって幸せになれない。」

「そんな事、」

「…っ…私には…貴方しか、居ないからっ……。」


愛おしさに吸い込まれるように彼にそっと近寄ると、キスをせがむように唇を、ゆっくりと近づける―――









「―――― …?」


名前を不意に呼ばれ、ハッと目を開けると愕然としているマークの顔が目の前にあった。近すぎる、と
慌てて傍を離れた。


「ごっ、ごめんなさいっ。私ったら、一体何を考えているんだろうねっっ。。」

「………。」


尚も信じられないような瞳で私をまっすぐ見つめるマーク。恥ずかしい。これ以上顔と顔を合わせられない。
反応を窺うようにとちらりと視線を向けた瞬間、オールをそっと手元に置いた彼に両肩を強く掴まれ、そして―――




「マークっ、ん、ぅっ…。」


驚愕に目を見開いた。叶わないのであればイメージだけで無理やり満足していたキスが、こうして実現したから。
目を閉じ、唇を重ねているマークが瞳の奥に映る。しかし突然の事で実現した、という実感が沸かずにいた。
そっと、静かに離されたかと思うと優しい腕にぎゅっと抱かれた。


「マー…ク…?」

「…僕も…… 無しじゃいられない。」


背中に回されたマークのすらりとした両腕の温度がとても熱く、背中いっぱいに広がる。


「僕も仕事で君以外の色んな女性と関わってきた。けど……君が傍にいない世界なんて僕には考えられない。耐えられそうにない。
心が…狂ってしまいそうだ。だから…君の辛い気持ちも知らずに勝手なことを言ってしまって…本当にごめん。」


そして「僕と同じ境遇だね」と優しく微笑んだ後、濡れた目元をそっと拭かれる。いつの間に泣いていたんだろうか。目から涙がはらりと零れていた。
固く握られた両手。そして彼の何時にない、何かがこもったような強い、強い眼差しで見つめられて。


「一緒に逃げよう。僕と二人で、遠くに。」

「えっ………?」



マークの唇から私に向かって発せられた、台本に無い本心が込められた台詞。





「どんな辛いことがあっても君を絶対に悲しませたりなんかしない。僕が必ず守ってみせるから。 。君だけを、愛している。」





初めてマークが、


ドラマのように、いや、それ以上にかっこいいと


頬が熱くなった。




-end-






★まさかの駆け落ちENDですかっ!!!でもこんな終わり方も結婚END同様・LOVE臭くていいんじゃないですか(LOVE臭い?)


もうマークたんはかっこいいというより、可愛すぐるっっ、可愛すぐる よぉぉぉぉぉぉ!!!!(*´Д`)ハァハァ←きめぇ
ケモナーキャラも意外と癒される&萌えますねvvv(ただし可愛い&イケメンに限る(あ”!?)


14.11.12