俺と彼女の唯一の出会いの架け橋が、血も涙もない残酷な人たちによって絶たれてから今日で何日目になるのだろうか。
壊されてしまった投影機からは、ひとつの光も発しなかった。




今日も彼女に会えると心待ちにしながら、いつもの場所へとやって来た俺の目に飛び込んだのは
温かい笑顔で出迎えてくれる優しい彼女を映した投影機ではなく、何者かの仕業によって変わり果てた無残な姿。
頭を大石でぶつけられたような大きな衝撃を受け、見せようと持ってきたプレゼントが手から落ちた。
彼女は投影機の中でしか生きられない映像の中の存在なのに。一体誰がこんな酷いことを、
―――悲しみと同時に抑えきれない怒りを覚えた。



自らの手で壊した投影機を面白がって取り囲んでいる犯人たちを見つけ出した時、怒りに任せてそいつらに掴みかかった。
彼女を返せ、と何度泣き叫び、怒り狂った事だろう。そして何度そいつらに殴り返されたのだろう。
ところどころが切れて血を流す痛みには気にしていられぬ程に。
しかしこんな仇討ちみたいな真似をしたって、彼女は戻ってくれるわけがなかった。
姿も、存在も、―――全て消されてしまったのだから。








フロウフロウ。誕生花が見たい、と楽しみにしていたよな。持ってきたよ。



ほんの慰めになれれば、と一本の綺麗な花を傍らにそっと置いた。愛おしい彼女の姿を、命をもう二度と映さない投影機。
MZDに頼んだら修理は何百年もかかると言われ、さらに衝撃を与えられた。出来ることなら、今すぐにでも彼女に会いたい。
「ごめんな」と謝りたい。実体はつかめなくとも、この手で強く抱きしめてやりたい。
こんな俺を、彼女は変わらない優しいあの笑顔で、許してくれるのだろうか。
守ってやれなかった無念の悔し涙が、壊された投影機の欠片の上にぽたりと落ちた。





――――瞬間。ブゥン、という弱々しい起動音が鳴った。








『……… 。』


「…っ…フロウ、フロウっ………!」




一部破損した映像から再び蘇った、彼女の姿。多少の乱れが襲い、欠けてしまっていても優しい微笑みを見せてくれた
懐かしく、愛おしい姿。両手が静かに差し出されたとき、涙が、より一層零れた。
…奇跡だ、こんなことって。思わずそう呟くと彼女はにっこりと柔らかく笑った。



『…ありがとう。 。』

「何、言ってるんだよ。俺は礼を言われることなんて一度もっ…。謝りたいぐらいだよっ…!」

『ううん。奇跡が起きたんじゃなくて貴方が奇跡を起こしてくれたから。それだけでも私は嬉しいのよ』

「…っ…。」



 
『本当にありがとう。大好きな 。』




ノイズが走る彼女の唇から出たその言葉。嬉しさがぐっと込み上げ、涙を流しながら映像の中の彼女を抱きしめた。
自分はどれだけ情けないぐらいの泣き虫だろうと思う。そんな俺を彼女は愛おしい笑顔のままでいつまでも離さないでいてくれた。




-end-






★奇跡は起きるものじゃない、自分の手で起こすものだ!と中学の頃の先生に教えられ、ぐっと感動した覚えがあります。
今でもそのお言葉が身に染みて、忘れられません。先生が毎週欠かさず書いてくれた「奇跡」という名の学級通信、
残しとけば良かったです…。。。(もう10年以上も前のお話。。。)

なんと、フロフロちゃんを書くという予定外のお話を書くとは自分でも思いもしませんでしたっっっ……!!!
やはり思い立ったらすぐにでも書くべk(ry


15.1.29