「シャルロット。去年の今日のこと、覚えている?」
が笑顔で愛おしいように眺めながら私の髪を櫛で丁寧に梳いてくれる。
えぇ。もちろん。とにっこり微笑んで頷いたの。
忘れもしない、一年前の今日。あの日。あの時。
今でも鮮明に覚えているわ。
いつどこで誰に作られたのか分からない。どうして生まれたのか分からない。
気がついたらこの世界に人形として生まれてきた私。唯一分かるのは名前がシャルロットということだけ。
雨の中ぼろぼろのドレスのまま捨てられていた私を拾って下さり、
今日まで大事に傍に置き、大事に愛して下さった。
それが私と
、初めての出会い。貴女との初めての生活。
そして貴女はこう決めて下さったの。
「あなたを初めて拾った日が、あなたのお誕生日ね!」と。
あれから早くも一年。初めて迎えた私の誕生日。
貴女が作ってくれたいつもと違う、今日の誕生花・プリムラジュリアンのついた素敵な髪飾り。
おしゃれで可愛く豪華なドレスを着飾ってくれ、、
私は
に幸せそうに微笑んで見せた。「素敵。とっても似合うよ。」と笑ってくれたの。
その笑顔が大好きで、そして愛おしく思えて。
私を幸せにさせてくれるの。
「色んなことがあったけれど…本当に一年あっという間だったね。」
貴女と出会ってから世界が生まれ変わった。
何処へ出かけるのも私を連れて行き
私の知らない美しいもの、素晴らしいもの、そして楽しいことを教えてくれた
。
貴女が楽しい時、一緒に笑ってあげた。
貴女が悲しい時、傍に寄ってその涙を拭いてあげたり
私の好きなダンスで慰めてあげた。
「ありがとう。」と言って涙がまだ残っているいつもの笑顔を見せてくれた
。その度に嬉しかった。
貴女にとって色んなことが私にとっては素晴らしいこと、珍しいことだらけで
一日一日がとっても美しく、そして輝いて見えたの。
全ては貴女と出会えたおかげで。
大好きな
。
けれど貴女のことで
どうしようもなく不安になったりするの。
「…
。貴女は私を、…捨てたりしない…?」
私は人形で、貴女は人間。
人は誰しも大人になる。その運命は避けられない。
人形は外見も気持ちも何年経っても変わらないけど
無邪気な少女だった貴女もいつしか立派で綺麗な女性になっていき
次第に気持ちや考え方も変わっていく。
人形の私でも分かっている。いずれそんな日が必ずやって来ることを。
…だから怖いの。
中学生、高校生、そして大学生となって、素晴らしい男性と出会って結婚した時
思い出したように私を見つけて
まるで別人になってしまったかのように再び私を捨ててしまうんじゃないかって。
人形として作られた私でも、嫌でも恐怖を感じてしまうの。
変わってしまった貴女。もし見捨てられたら一体どうすればいいんだろう。
それがたまらなく不安で…怖い。
時が経つのを恐れて、ただじっとこの場で佇むことしか出来ない。
「シャルロット。心配ないよ。」
不安の色を浮かべた瞳が見てとれた
は私を安心させるようにゆっくりと優しく髪を撫でてくれた。
「私、他の人たちみたいなひどい大人になんか絶対ならない」
いつも朗らかな貴女とは違った強い眼差し。
初めて見たその真剣な表情に、私は思わず驚いてそんな貴女を見つめていたの。
「これから先も、あなたにいっぱい教えたいことが山ほどあるし、それに夢があるの。」
「大人になったらもっといい学校に入って、たくさん勉強して…今よりもっと素敵なドレスをいっぱい作って
シャルロットに着せるの!」
「そして私がいつか結婚したらシャルロットももちろん一緒に連れて行くし、お婿さんや生まれてきた子供に
私の大好きな人形だよって自慢するんだ!」
「シャルロットは大切な、大切な…私だけの一生の宝物だから。」
――――― 宝物。
貴女が言ってくれたその言葉。
私は人形だけど
胸に何か温かいものを感じた。
私を大事にそっと抱きしめてくれる
。
涙なんて決して出ないけど
あぁ、大好きな貴女に、こんなにも愛されているんだ。と実感し、
嬉しさで心がいっぱいに満たされていった。
寄り添う貴女の首筋。
人間特有の血が流れていてとてもぽかぽかしていて暖かかくて、
私に安心感と、そして幸福感を与えてくれた。
―――― 私も貴女がいつまでも大好きよ。
。
「シャルロット」
「またあなたの素敵なダンス、見せてくれる?」
。
もしあの日、貴女と出会えていなかったら
今の私や今の生活はきっと無かったわ。
だから今夜は感謝と恩返しを込めたダンスを
精一杯踊って見せるの。
にっこりと承知し、一礼をしてから
暖かい部屋の中心で軽やかにステップを踏む。
貴女に会えて良かった楽しい日々、思い出。
そして貴女が私に授けて下さった幸せいっぱいに満ち溢れた、最高の人生を、
ありがとう。
-end-
★楽しい2014年をありがとう。
14.12.22