うっすらと重い瞼を開き、ぐらりと歪んだ視界に広がったのは赤黒く染まった空ではなく、真っ白な天井。
薄いシーツの上で完全に冷え切った身体を温めるように被せられた羽毛布団。
絶対死ぬだろう、と確信していた。あんな血だまりの中で倒れていたのに━━━━生きている。
誰かが自分の名を何度も呼び、その人に抱えられて運ばれた所は何となく記憶にある。その後は覚えていない。
体に少しの痛みが疼き、見ると幾重に丁寧に巻かれた白い包帯。
いったい誰がここまで運び、そして手当てをしてくれたのだろうか。
とにかくこの家の住人に礼を伝えなければ、と布団を剥ぎ、ベッドからゆっくりと降りた。
















━━━━台所に立っているひとりの女性。その人は僕の姿に気づくとにっこりと笑った。
大きなテーブルの上には豪勢な料理が並んでいる。



「気がついた?ブラックさん。」

「…君が、僕を……?」

「ううん。ヴァイス先生が貴方をここまで運んで下さって、手当ては私がしたの。」

「…そうか、どうりで僕の名前を知っているわけだ」

「もう起きてて大丈夫?あの時、すごい傷だらけだったから」

「…少しは。」

「お腹すいたでしょ?さぁ、座って。」



言われてみれば確かに胃の中は空っぽだった。テーブルの前に着くと、彼女が僕を椅子に座らせる。
目の前に色とりどりの出来たての温かい料理。食欲をそそる匂いが鼻をくすぐる。
丁重に食べる前の挨拶を交わしてからフォークを手に取り、料理をそっと口に運ぶ。
…何とも言えない、美味しさ。まともに物を食べていない体が歓喜に打ち震えた。



「…美味、しい。」

「ふふっ、良かった。ゆっくり食べてね。」

「…まさか、君一人でこれを?」

「ううん、妹の も一緒に手伝ってくれたの。その も烈くん達ととっくに遊びに出かけちゃったけど」

「…君は?」

「私は 。今日は学園はお休みで、お昼から大牙くんとデートに行くんだっ。」

「…………。」




楽しげにそう語る は自分の名前を教えてくれた。その瞳はとても輝いていて、
重々しく、そして酷い事などまるで知らないぐらいに。僕にはそう見える。


…家族。友人。そして、恋人。


そんな人たちに囲まれて は幸せなんだろうな、と思うと…胸が痛くて仕方ない。



………………それに比べて、この僕は…………。



僕にも一人居たら、そんなにも気持ちが変わるものだろうか。そして心の底から、…笑えるのだろうか。
誰にも打ち明けたことのなかった本音を、ついぽろりと呟いた。


「…初めてだ、誰かの手料理を食べるなんて」

「えっ、どうして?」


彼女は少し驚いたように、僕を見る。



「…支える人も無く、頼る人も全く居なくて今までずっと独りで戦ってきた戦士だから…。 が羨ましい。」

「…そう、なんだ…。 ごめんなさい、ブラックさんの寂しい気持ちも知らずに」

「…いや、構わない。こうして世話をしてくれるだけでも、感謝の気持ちでいっぱいだ。」



「寂しい」…誰かにそう言われて、苦しみを、悲しさを少しでも理解して欲しかったのかもしれない。
はそんな僕を悲しそうな表情でしばらく見つめていたが、すぐにぱっと無邪気な笑顔に変わり



「いつでも居たいだけここに居ればいいよっ。お父さんお母さんにはもう言っておいたから。」

「……いい、のか…?」

「もちろん!大歓迎よ。私たちのお友達もみんな紹介してあげるっ。」

「…………ありがとう。……」




乾いた口から溢れ出た、他人への初めての感謝の言葉。…何故だか体の奥がとても温かく感じる。
自分の心の中にひとつの炎が静かに灯ったような、そんな僅かな温もりを知った。



「…… 。」

「なぁに?ブラックさん」

「明日も、 の手料理を作ってくれないか。」

「ふふふっ、任してっ。」





他人の為に初めて笑えたような、そんな気がした。 





-end-







つよし王子と重なっとるやんけッッッ!!!;;;と、慌ててネタを 浮かばせ、2、30分で書き上げました♪
(彼も書いてみたいなぁ〜と思ったのもありますけど☆)

ブラックさん…何の為に戦っているのか未だに謎ですし、過去に何があったのか分かりませんけど
こおいう影を持つ意味深なキャラは案外考えやすかったりします(*´∀`*)
そして、まさかのラピストリア姉妹を出すとわ、思ってもみなかったですな…!!(爆)

そして書いてる時にずっと疑問に思ったことが・・・ブラックさんって、!? それとも!?どっちなんですか!!??(死)


14.10.25